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第七話
清蓮はもう一つ気になっていることがあった。
正確には、一つどころか、あれもこれも光聖のことを知りたくてたまらなかったが、あまり聞きすぎるのもよくないだろうと、一番気になったことだけを尋ねてみることにした。
「ねぇ、光聖。もう一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「うん、構わないよ。なにが知りたい、清蓮?」
光聖は嫌がることもなく、清蓮とのやりとりを純粋に楽しんでいるようだ。
「私が宮廷を抜け出した後、森の中で君と会ったと思うんだけど……。あの時瞬きするたびに白い鹿と男性が交互に見えた。温蘭で君が怪我を治してくれた時も同じことが起こった。あれは一体なんなんだい?鹿に見えたり君に見えたり……」
「君はどこかで白神伝説を聞いたことがあるはずだ。森の中に大きな角をもった白い鹿がいて、それが白神様だとか、白神様の遣いだとか……。ある伝承では人間と同じ姿をしているとか……」
「うん、知ってる。みんなが思う白神様はそんな感じだと思う」
清蓮はそういうと目を見開いて、両手を一つ叩いた。
「そうか!わかった!見る人によって変わるだね!君を人だと思えば人の姿をした君が見えるし、君を鹿だと思えば、鹿の姿をした君が見える。そういうことだろう?」
光聖は清蓮の答えに嬉しそうに答える。
「うん。人はね、いろんなものを見ているように見えるけど、実際は自分が見たいと思うものだけを見ているんだ。見たいものしか見ないし、見えないんだ。だから人によって私は鹿に見えたり、人間に見えたりするんだ」
清蓮は感嘆の声をあげた。
「つまり、私たちが勝手に君を、光安先生もだけど、見たいように見ているってことなんだね!」
清蓮は「そうか、そうか」と満足気に呟いていたが、ふとある考えが不意に浮かんだ。
「じゃあ、私が鹿の姿をしている君を見たいと思ったら、君はすぐにでもその姿を見せてくれるのかな?」
清蓮は光聖の方を見上げながらそう言うと、驚愕の表情を見せた。
清蓮が視線を移したその瞬間、光聖は例の白い鹿の姿になっていたのである。
清蓮の前に現れた白鹿は、まさに雪のように白く、天に向かって幾重にも伸びる雄々しい角、その角を支える体も殊の外大きく、清蓮が跨ったとしてもびくともしないであろうほどだ。
人の姿をしている光聖と同じく神々しいまでの姿だが、唯一異なるのは、光聖の涼し気な切れ長の瞳ではなく、丸くて愛らしい瞳をしているのだ。
清蓮は感嘆と称賛の目で見上げると、白鹿の顔に向けてそっと手を伸ばした。
確かあの時……、森の中で遭遇した時は触れる前に、深い眠りについてしまった……
でも今は目の前に、清蓮の手の届くところにその姿がある。
清蓮はそっと顔に手を当て、ゆっくりと撫でると、白鹿は目を細め、なんとも気持ちよさそうな表情になる。
清蓮は撫でていた手をさらに角へと伸ばした。
清蓮はそっと角を撫でるが、撫でられた瞬間、白鹿はなぜか顔をぶるっと振るわせ、嫌がる様子を見せ、体ごと一歩後退りした。
清蓮は慌てて、「ごめん、光聖。ここは触れてはいけないんだね。ごめん。もう触らないから」と謝ると、白鹿は小さく頷いた。
もう触らないと言った清蓮だったが、その言葉に反して、愛くるしい瞳で見つめてくる白鹿に、また触れてみたいという衝動に駆られた。
清蓮はさすがに角に触れることはしなかったが、もう一度白鹿の顔を優しく手で撫でた後、頬ずりしながら抱きしめた。
「かわいい……」
清蓮はため息交じりに呟くと、いましがた抱きしめていた白鹿とは異なる感触を感じた。
「えっ!あっ!光聖⁈」
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