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第十二話
太陽が自らの力強さを誇示するようにめらめらと燃える季節。
名凛が修練場にやって来た。
彼女は以前から清蓮と友泉のいる修練場に行きたいと、父である国王におねだりをしていた。
その願いがようやく叶い、名凛は乳母の梅林《ばいりん》を伴い、喜び勇んでやって来たのだった。
光安は名凛一行を出迎えた後、名凛を清蓮と友泉が他の門下生のもとへと案内した。
名凛が案内されたのは修練場の外れにある広場だった。
見ると清蓮はまさに門下生の一人と手合わせの真っ最中で、剣を交え相対していた。
彼らから少し離れたところでは友泉やその他の門下生、光聖も二人の様子を見守っている。
一見すると、剣術の手合わせに見えるが、ここは仙術の学舎だ。
清蓮も門下生も修練で得た仙術を用いながら、剣を振るっているのだ。
清蓮がくり出す仙術は集まった門下生の中でも群をむ抜いて優秀だった。
清蓮といい勝負ができるのは友泉くらいだ。
清蓮は愛刀に念を込めると、いとも簡単に剣は清蓮の思いのままに形を変え、間髪入れず相手に切り込んでいく。
その速さも力強さも、剣を自由自在に操る独創性も、比類なき才能をまざまざと見せつけていた。
門下生は容赦なく攻め入る清蓮にかなり苦戦しているようで、剣を構えているだけで精一杯のようだ。
名凛は清蓮の優雅で力強い剣捌きを見ると手をたたいて喜んでいた。
「お兄さま、すごいわ!頑張って‼︎」
それを見た門下生は面白くなかったのだろう。
名凛に思わず名凛に向かって大きな声で悪態をついた。
「おまえ、うるさいぞ!女なら大人しく見てろよ!気が散るだろうが!」
名凛は突然門下生から怒鳴られて驚いてしまったが、それでも大人しく黙っている名凛ではない。
「うるさいとはなによ!お兄様を応援してなにが悪いというの?お兄さまに勝てないからって怒らなくていいじゃない!」
「なにがお兄様だ⁈俺が負けてるだって⁈ 顔にでっかいあざのある女にそんなこと言われたくないね!おまえ、自分の顔見たことないのかよ⁈ おまえのお兄様は綺麗な顔してるのに、おまえのその顔ったら……」
「……‼︎」
「……‼︎」
「……‼︎」
そばで聞いていた清蓮は怒り心頭、自分の立場も忘れて門下生に切りかかる。
しかし門下生は清蓮が相手をするまでもなく、すでに地面に突っ伏していた。
清蓮よりも素早い動きで友泉がその門下生を殴り、地面に叩きつけていたのだ。
「おまえ、清蓮に勝てないからって、妹の名凛にそんなこと言う必要はないだろう!謝れ!名凛を悪く言う奴は俺が許さないぞ!」
「うるさい!うるさい!うるさい‼︎俺は本当のことを言ったまでだ!何が悪いんだよっ‼︎」
門下生は門下生で友泉に殴りかかり、二人はとうとう殴り合いの喧嘩になってしまった。
名凛はその場に立ち尽くし、ほろほろと涙を流している。
清蓮は泣きじゃくる妹を抱きしめながら、慰めの言葉など意味もないことをわかってはいたが、それでもなにか言わねばと、繰り返し同じ言葉を投げかけた。
「名凛。君はなにも悪くない。なにも悪くないからね」
清蓮は名凛の手を握って、乳母の待つ修練場に急ぎ戻って行った。
途中、所用から戻った光安と出くわした清蓮は簡単にことの経緯を話しした。
「私がいない間に……。名凛、門下生が申し訳ないことをした。許してくれとは言わないが……」
そう言って、光安は名凛に目線を合わせて優しく声をかける。
「名凛。宮廷に遣いをやって迎えにきてもらおうか?それとも私の使いの者と今すぐ宮廷に向かうか?」
名凛はまだぐずついていたが、それでも少し落ち着きを取り戻し、光安の目をしっかり見ると、迷わず答えた。
「お兄様と一緒にいる。友泉と一緒にいる」
光安は名凛の頭をそっと撫でながら、
「そうか……。分かった。それでこそ君は……清蓮の妹だな」
清蓮と名凛が修練場に向かうのを見届けると、光安は友泉たちのいる広場に向かった。
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