105 / 110
第十四話
一悶着あった数日後、友泉にこてんぱんにされた門下生は、怪我の手当も早々に修練場から去って行った。
友泉はというと、圧倒的な力の差で一方的に門下生を痛めつけたが、それでも無傷とはいかず、体のあちこちに傷を負っていた。
騒動の翌日以降、友泉は修練を休み、一人寝台に横たわって、体の痛みに耐えながら退屈な時間が過ぎるのを待っていた。
「くそっ!楽勝だと思ったのに、あいつ……。いてっ……‼︎ 」
友泉は体のあちこちが悲鳴をあげているのも気にせず、ぶつぶつ文句を言いながら身を起こすと、部屋の壁にかかっている鏡を覗き込んだ。
友泉は終日横になっていたため未だ自分の顔がどうなっているのか確かめてはいなかったのだ。
鏡の中には化物と化したおぞましい顔があり、友泉はぎょっとして思わず小さな叫び声をあげた。
今にもはち切れそうに顔全体が赤く腫れ上がり、さらには見事に膨れ上がった左目の瞼は、地に向かって重く垂れ下がり、友泉の視界を遮っていた。
「なんだよ、これ……」
友泉は情けない姿に絶句するしかなかったが、直ぐに気を取り直し、この怪我は名誉の負傷だ、名凛の名誉のために喜んでしたことだと心密かに誇りに思うことにした。
実のところ、友泉は清蓮や名凛のためならなんでもするつもりだった。
「友泉……」
しばらく鏡に映る自分と無言で相対していた友泉だったが、後ろから聞き慣れた声が聞こえると、友泉はびくんと一瞬体が縮こまった。
友泉は鏡越しに名凛が部屋の入り口から覗き込んでいるのが見えた。
「友泉はお馬鹿さんね!そんな変な顔になっちゃって!」
名凛は声を弾ませながら友泉に話しかける。
「はぁ?おまえ、何しに来たんだよ⁈ 俺の顔を笑いに来たのか……?」
友泉は文句の一つも言おうと構えていたが、途中で遮られた。
何故なら名凛が友泉の前に立ち、顔を上げたかと思うと、手を伸ばしその痛々しいまでの顔にそっと触れたからだ。
「お馬鹿さんね……」
友泉は先ほどと打って変わって名凛の声が微かに震えているのに気づいた。
「……」
「……」
「たいしたことねぇよ。王族を守るのが俺の役割だから。清蓮も同じことしようとしてたけど、妹がいくら侮辱されたからってそう簡単に王族が人殴るわけにはいかないからな」
友泉は自分の顔に触れている名凛の手を握ると、大丈夫、気にするなと、もう片方の手で名凛の手の甲をとんとんと優しく叩いた。
「うん。ありがとう、友泉。ありがとう……」
名凛はそう言うといつもの快活な表情になった。
名凛は何を思ったか、友泉に「渡したいものがある」と言って、急いで部屋の入り口を開け、部屋の外で待たせていた乳母の梅林から小さな人形と薬の入った壺、そしてこれまた手のひらに収まるほどの小さな鉄の板を持って友泉の元に戻ってきた。
「はい、これあげる!」
名凛は何の説明もなくそれらを友泉に手渡した。
「おいおい、何だよこれ⁈ 薬壺は分かるけど、なんで人形と――これは一体何なんだ⁈」
名凛はその質問を待っていたとばかりに大きく頷いた。
「まず、これは友泉の言うとおり、薬壺で光安先生がくれたの。よく効くんですって!あとこれは、光安先生のお友達と一緒に作ったお人形と鉄のお守りよ!」
「人形?お守り?おまえ一体この数日何やってたんだよ⁈ 宮廷に戻らずにこんなもん作ってたのか?光安先生の友達って誰のことだよ⁈」
友泉は目を丸くしながら矢継ぎ早に名凛に問いただした。
名凛は友泉が思った通りの反応を見せると、ここぞとばかりに話し始めた。
ともだちにシェアしよう!