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第18話 治療

「あっあっあっあっあ」  何がどうしてどうなったのか分からないまま、菊地は一之瀬に抱き抱えられて、別の部屋に連れていかれた。  大きなベッドしかない部屋に、横抱き状態で連れていかれて、寝かされた。靴は一之瀬が勝手にぬがして、菊地の上に一之瀬が、いる。  菊地が、訴えるお腹のいたいところを一之瀬が何回も確認する。  指で軽くつついたり、撫でたりを繰り返す。その刺激が来る度に、菊地はお腹がぎゅうぎゅうとして声が出た。 「やだ、痛い」  やめて欲しくて一之瀬を、自分の上から落とそうとするけれど、体格差と力の差があるせいで、全く何も出来ていない。  それどころか、一之瀬は菊地の服を捲りあげて、臍の辺りだけ外気に晒していた。 「ここが、どうなんだっけ?」  指でクルクルと、円を描くようにして、時折軽く押し込んでくる。 「やぁ……痛いっ、て…ぎゅうぎゅうする」  一之瀬の匂いがどんどん濃くなって、鼻で息をするより、口で大きく息をする。けれど、大きく開けた口から吸い込む空気にも、一之瀬の匂いがある。  舌の上に、甘い感じかする。匂いを味わっているような感じがした。 「ここは、オメガの子宮だよ、和真」  言われても、意味がわからない。  高校生の頃から、一之瀬の匂いを嗅ぐとそこが痛くなる。痛くて痛くて、気持ちが悪くなるのだ。 「やだ、痛い。やめろ、よ…お前の匂い嗅ぐ、と…痛く、な、る」  逃げようとしているのに、一之瀬の腕が腰に回されている。菊地の背中は仰け反っていて、膝を立てて必死になるけれど、一之瀬にはなんともないらしい。 「俺のフェロモンを嗅いで、和真の子宮が反応してる」  一之瀬は嬉しそうに菊地のお腹を撫でる。 「やぁっ、痛い…もう、やだぁ」  足の指先にまで力を込めるが、菊地のそんな抵抗は、一之瀬には全く無意味だ。 「和真の子宮が俺のフェロモンに反応して、俺を欲しがってるんだよ」  何を言われているのか、菊地には全く意味が分からなかった。自分の何が、一之瀬の何を欲しがっているって? 「あっ、ダメだから…お腹がぎゅっ、てしてるから」  腰を抱えられているせいか、菊地の体がゆらゆらとしている。力の入ったつま先がギリギリで、シーツに着いている。 「痛いの、治してやろうか?」  耳元で囁くように言われて、口を開けて苦しい呼吸をするだけの菊地は、コクコクと頷いた。 「治し、て」  菊地の体から、一瞬力が抜けると、一之瀬はその隙に服を脱がした。元から腰に手を回していたから、下を脱がせるのはたいしたことではなかった。  上だって、お腹がよく見えるようにたくし上げていて、ボタンは既にいくつか外してあった。 「痛いの、治そうな」  言われて菊地はまた頷いた。ずっと痛いのが嫌だった。痛いのと怖いのが、一之瀬の匂いに連動する。  今日もまた痛い。  それが、治る? 「ひ、やぁ…っ」  お腹が痛いと言うのに、一之瀬が胸を触っている。  軽い痛みと、もどかしい何かがあって、それは違うと思う。 「痛いの、ヤダって…」  一之瀬の手を退けようとしたら、手を掴まれて、一之瀬の頭が自分の胸の上にあった。  水音と同時に生暖かい何かが胸を這う。吸われるような感じと、軽い刺激が同時に来て、痛くはないけれど、それは痛いのを直すのとは違うと思う。 「なん、でっ」  腰に回された腕が強くなって、体が密着して、胸を強く吸われて、思わず頭が仰け反る。 「治すっ、て、言った」  今ので余計にお腹がぎゅっ、て、なった。  一之瀬は嘘つきだ。 「いま、治してる」  胸の辺りで一之瀬が喋るから、息と舌と歯が当たる。 「やぁだぁ、治んない」  いい歳して言うことではないけれど、一之瀬の匂いのせいで、記憶が高校生の頃に戻っている。あの頃みたいに、一之瀬の匂いでお腹が痛くなって・・・ 「痛くない」  一之瀬がそう言うと、菊地の首筋を舐めた。 「くすぐったい」  身を捩って逃げようとしたら、腰に回された腕がそれを許さなかった。脇腹の辺りを撫で回されて、その手が下に進んでいく。 「胎内から治そうか?」  耳元で言われて、不思議に思う。  どうやって? 「あっ、ん…?」  何かが胎内に入ってきた。 「え?あ?…っん」  口を開いたら、塞がれた。  口内に、一之瀬の、舌が入ってきたのはハッキリとわかった。が、胎内には、何が入ってきた?  押し込むように何かが動いて、その度にお腹がきゅうきゅうしている。さっきまでのぎゅっ、て言うのとは違った。痛くはないけれど、治してくれているとも思えない。 「んっ、ふっん、んん」  文句を言おうと口を開けると、さらに一之瀬の舌が深く入った来て、菊地から言葉を奪っていく。  そっちに気を取られていると、菊地の胎内を押し込む物がさらなる刺激を与えてきた。一点を押し込んできていたはずなのに、二点を押し込むようになり、圧迫が強くなる。 「あっ?ああ、な、んで?なに、してる?」  一之瀬の舌が出ていって、ようやく言葉が出るようになった。出てきた言葉は疑問だらけで、自分で口にしているのに意味が分からない。 「お腹痛いの、胎内から治すから、ね」  一之瀬はそう言うけれど、胎内からどうやって治すのだろう。お腹がきゅうきゅうするのがまったく治まる気配などない。 「あっ、だ、だめ…ぜん、ぜっん、治らないっ」  菊地は訴えるけれど、一之瀬はお構い無しに手を動かす。それに合わせて菊地から粘着質な水音が聞こえてくるが、それは菊地には聞こえておらず、一之瀬は口元を緩くした。 「やだっ、一之瀬の匂い、強い…嗅ぎたくない、痛い、お腹が、痛い、もうやだぁ」  治すといったのに、一之瀬の匂いが濃くなって、それのせいで菊地のお腹はどんどん痛くなる。きゅうきゅういって、治まる気配はない。 「和真、俺の匂い嗅いで子宮が反応してる。可愛い」  一之瀬はそう言って菊地の、顔に唇を落としまくる。 「やっだ、やだやだ、治すって言った、言ったのに、嘘つき、嘘つきだ」  菊地は自分の上に乗る一之瀬を押しのけようと、一之瀬の肩を掴んだ。けれど、掴んだけでそれ以上力が入らない。 「嘘はつかない。治してやる。注射が、一番効くんだ直接胎内に注いでやるからな」  一之瀬はそう言うと、菊地の両膝の下に腕を回した。菊地は一之瀬の肩を掴んだままで、それを見ていた。 「…注射?」  そんなもの持っていないのに。  菊地は一之瀬を、じっと見つめる。お腹がぎゅっ、てなるのは未だに治まらない。 「力抜いて、和真」  言われるままに口から息を吐く。 「…っあ、ぁあああああああ」  胎内に何かが押し込むように入ってきて、圧迫が凄い。口から息を吐き続けるけれど、それでも逃れられないほどの圧迫が菊地の中に入ってきた。 「痛くない?」  ずっと掴んでいる一之瀬の肩が、自分の肩の近くにあった。 「え?あっ…あ、っはあ」  お腹がぎゅっ、てなるよりも、他の場所もきゅうきゅう動いている。 「はぁ、凄い、和真」  一之瀬が、嬉しそうに言うのを遠くの方で言われているように聞いている。  痛くは、ない。  お腹がきゅうとか、ぎゅうとか、そんな感じがするけれど、痛くはない。ないけれど、何かがおかしい。 「あ、あん、そこ…そこがぎゅっ、て」  息を吐きながら菊地が訴える。  胎内で動く何かが、菊地のお腹の中でぎゅっ、てしている箇所に当たるのだ。 「ここ?」  一之瀬が確認するように腰を動かした。 「あ、そこ…そこ、がっ」 「ここ?ここが痛いの?」  一之瀬が腰を動かしながら確認をする。菊地の胎内で何かの手応えを掴んだ。 「閉じてるのに、欲しがってるなんて、凄いな」  一之瀬が独り言のようにつぶやくけれど、菊地の耳には届いてはいない。 「あっああ、も、やだ…治して、治してよ」  菊地の手に力が入って、一之瀬の肩に爪が跡をつける。 「薬、入れてやるからな」  一之瀬の唇が薄く弧を描く。  腰の動きが早くなり、その度に菊地の奥に刺激が走る。ぎゅっ、てなる箇所が強く反応している。 「あ、あぁ、痛い、痛い」  菊地が一之瀬の下から逃げようと必死でもがくが、一之瀬はしっかりと菊地の腰を掴んでいた。自分腰を前に動かすのに合わせて、菊地の腰を引き寄せる。強い力でぶつかって、菊地の胎内に起きるはずのない衝撃が起きた。 「ああっ」  菊地の背中が大きく弓のように反る。 「和真、薬を沢山注いでやる」  一之瀬が菊地の腰を掴んだまま、軽く揺さぶる。 「あっあっあっあっあっ……あ、つい…」  菊地は両手で自分のお腹をさする。ぎゅっ、てなっていたお腹がものすごく熱い。熱が注がれている。 「効いてきた?」  一之瀬が菊地の手の上に自分の手を重ねてきた。 「あっ、う、ん。お腹、あったか、い」  ぎゅうぎゅう言っていた、お腹が、痛くない、一之瀬の薬が効いてきた。 「ふふ、いっぱい注いでやるからな」  一之瀬の唇が軽く歪んだ。

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