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第26話 要受
「バカ、やめろ。明日出かけるんだから」
菊地が一之瀬の腕から逃れようと、胸を叩く。けれどそんな抵抗は、まったくきかない。
「車で送るから、もちろん迎えにも行く」
一之瀬の手が菊地の手を掴んで、その指を口に咥える。舌が指の付け根を丁寧に舐めて、指に巻き付くように形をとると、そのまま強く吸われた。
「な、に…」
そんなことしながら、一之瀬は菊池を見つめている。一之瀬の口からは、菊地の指を舐める水音が発せられている。その音がやけに大きく耳に響いて、菊地は恥ずかしくて仕方がない。
一之瀬の口に入る指が順番に入れ替わる。抵抗して手を外したいのに、手首を掴まれている一之瀬の手を外せない。
横になって寝ているから、下側の手が若干不自由ではあるけれど、動かすことは出来るのに、何故かそれをするきにならなくて、ただそれを菊地は見つめている。
最後の一本を舐めた後、一之瀬は菊地の手のひらを手首から上へと舐め上げた。舌先が手のひらから離れた瞬間、菊地の肩がピクリと跳ねた。
それを見て、一之瀬の唇が薄く弧を描く。何度見ても形がいい。そこから発せられる声は、菊地の耳に心地よくて、素直に聞いてしまう。
「和真」
一之瀬は菊地を名前で呼ぶようになった。理由は聞いていないけれど、なんとなくは分かる。だから、聞かない。
横向きから上向きに体勢を変えられて、髪を撫でられながら唇を重ねられた。腕が顔の周りにあるからか、一之瀬のフェロモンが濃くなる。
その匂いはもう嫌な匂いではなくて、嗅ぐと身体が熱くなる。特に、痛かったお腹が熱くなるようになった。一之瀬が言うように、子宮が反応しているなんて思いたくはないけれど。
それでも、どんどん熱くなる身体が一之瀬に縋りつこうとするのを、自分で止めることが出来ない。
「…あ、つい…熱い、よ」
お腹を中心に熱が広がって、自分の口から吐き出される息も熱い。
「ふふ、和真かわいい」
喘ぐように息継ぎをする菊地を、一之瀬は上から眺めてそう言った。パジャマのボタンを外しながら、ゆっくりと唇を肌にあてていく。
まだ慣れていない菊地の肌は、皮膚の薄いところがほんのりと赤みを帯びて、オメガらしい肌質にはなっていなかった。
「次のヒートまでには肌質が変わってるかな?」
そんなことを言いながら、まだベータの名残を見せる菊地の肌をゆっくりと味わう。ゆっくりとベータからオメガへと体質が変わっていくのか、まだ菊地の胸は愛される準備はされていなかった。
「ここもまだ、小さい」
皮膚の色は違うけれど、オメガとしてまだ日の浅い菊地だから、肌の色に似た色に染っていて、なんの主張もしていなかった。
「…いっ、たぁ」
あまりにも小さいので、一之瀬は指の腹で押し上げるように摘んでみた。皮膚をかなり引っ張ったのか、菊地が悲鳴に近い声を上げる。
「ん、ごめんね」
一之瀬はそう言って、舌で舐め上げた。
「やっ…」
痛みの次に、温かい刺激が与えられて、思わず背中が仰け反った。胸が、一之瀬に押し付けるような形になり、一之瀬はそのまま菊地の胸を口に含む。あまりにも控えめなので、周りの皮膚ごと口にする。全体的に吸い付くと、中心が控えめに主張してきた。
舌先で丹念に舐めていると、菊地がゆっくりと反応している。空いているもう片方は、優しく親指の腹を使って撫でるように愛撫してみた。
「やぁ、だ。むずむずする」
そう言いながらも、菊地は一之瀬を押しのけることもせず、枕の端を握りしめていた。
一之瀬の指が菊地の口の中にはいってきて、二本の指で舌を摘む。
「ふっ…んん……んぁ」
舌を動かせなければまともに喋ることは出来なくて、菊地の口からは意味をなさない声が出る。
「もっと啼けよ」
一之瀬が菊地の胸を強く吸って、軽く甘噛みをする。親指の腹で撫でていた方も、同じように吸い付いて甘噛みをすると、舌全体を使って舐めた。
「ふぅ……ん、んー」
何かを言いたくても、言葉が出せない菊地は一之瀬の指のせいで口が閉じられず、飲み込めない唾液を口の端から垂らしていた。
「赤くなってきた」
ずっと二本の指で捏ねるようにしていたからか、菊地の舌が赤くなってきた。それを満足そうに眺めると、一之瀬は指を抜いて代わりに自分の舌を射し込む。
「……ふっ、ふぁ…ん…ん」
ようやく飲み込めると思ったら、一之瀬の舌がまた、邪魔をして、歯列をなぞって奥まで来たところで、内側の歯茎を舌先が刺激する。
ようやく飲み込んだのに、その刺激で口の中がまだ水音で溢れる。喉だけを上下して上手く飲み込みたいけれど、一之瀬の舌が邪魔をする。
口の中で一之瀬から翻弄されているうちに、下の方では一之瀬の手がちゃんと菊地にイタズラをしていた。
菊地の腰を撫でていたと思ったのに、するりと中に入り込んで、未だに菊地が、見た事のない箇所に指を滑り込ませる。
「んっ……んっん」
腰を動かして抵抗しようとする菊地を、難なく抑え込むと、一之瀬の指はさらに深く侵入する。
「胎内も熱いな」
一之瀬が指を動かしながら言うと、菊地は開いていた口を慌てて閉じた。耐えようと試みるけれど、前回受け入れたものより細い指は、なんの抵抗もなく菊地のなかへと入り込んで、水音を立てる。
「え?なに?」
自分からそんな音がするなんて、全く、よくわかっていない菊地は慌てて確認しようと身を起こす。
「ヒートでなくても濡れるんだよ」
一之瀬が薄く笑いながら言うので、菊地の顔が熱くなった。一之瀬に触られて、一之瀬の匂いに反応している菊地のからだ。それがオメガなのだとまだ理解が及ばない。
「今日はお腹痛くならない?」
身を起こした菊地の背中を抱きながら、一之瀬が菊地の顔を見ながら聞く。
「うっ、うう」
痛くはない。むしろなんだかおかしな気持ちになっている。その辺が熱くて、そこから熱が身体中に広がっている感じがする。
「ほら、ここは?」
一之瀬の指が内側から菊地の腹を叩いた。
トントンと言う感じの指の動きだ。
「ひゃあ」
思わず菊地の腰が跳ねて、叩かれた腹の前には菊地の中心が小さく主張をはじめていた。
「いい反応」
一之瀬はそのまま叩いていた指で、今度はそこの内側を擦るように刺激した。
「あっ、なに?そっ…れ、だめ」
思わず菊地は手を伸ばしたけれど、そのせいで角度が変わってしまって、余計に指の押しつけが深くなってしまった。
「やぁぁぁ」
一之瀬の腕を強く掴んで、背中を仰け反らせる。腰を一之瀬が支えているから、後ろに倒れることは無い。
「ああ、やぁ…ぁ、ダメ、だめだから」
首を左右に小さく振りながら、懇願するような声を出す。
「ダメ?どうしてダメなの?」
一之瀬がそう言って、さらに指を押し付ける。
「あっ、なんか、変に… へ、んな感じ…する」
一之瀬の腕に体重をかけているのに気づいていないのか、背を反らせたままで菊地は答える。支えられる腕を支点にして、腰が揺れ始めた。
「変なの?」
腰が揺れるのに合わせて、一之瀬の指が動く。三本目が入り込んだことに菊地は気づかない。粘着質な水音が、一之瀬の手のひらから零れていく。
「んっ、あぁ、変に…頭が、変に…な、る」
「じゃあ、なればいい」
一之瀬の指がさっきよりも激しく動いた。それに合わせて水音が激しくなる。
「あ、あっあっあっ……あぁぁぁ」
急に激しくなった刺激に耐えきれず、菊地の口からは大きな声が加減なく出た。
「おかしくなってしまえよ」
一之瀬が菊地の耳元でそう言って、さらに強い刺激を与える。
「やだぁ」
一之瀬の腕を掴んでいた菊地の手が離れて、手の甲が口に当てられる。けれど、そんなことでは声は隠せない。菊地の内腿が痙攣するような動きをすると、菊地の腹に白いものが飛び散った。
「素直でかわいい」
一之瀬は、そのままゆっくりと菊地の背中をシーツにつけた。菊地の口は大きく開いて、浅い呼吸を繰り返す度に赤い舌が見え隠れする。それを眺めて一之瀬は自分の唇を舐めた。
そのまま貪りたい気持ちを押しとどめると、菊地の胎内から指を引き抜く。既に一之瀬の額にはうっすらと汗が滲んでいる。
「念の為、これ飲んで」
サイドボードの引き出しから、薬の袋を取り出すと、錠剤とミネラルウォーターを口にして、そのまま菊地の口へと流し込む。なんの抵抗もなく菊地の喉が上下すると、もう一口ミネラルウォーターだけを飲み込ませる。
「和真は素直ないいこだね」
既にぼんやりとした焦点の合わない目をしている。そんな表情もたまらないと思いつつも、一之瀬は菊地の膝の裏に自分の腕を差し込んだ。
まだ二回目の菊地の秘部は、ヒートの時よりは控えめだが、それでも受け入れるための体勢をつくっていた。
「控えめだけど、俺の匂いにつられて溢れてきてる」
菊地の身体の素直な反応に満足すると、一之瀬はそこに先端の柔らかい部分を押し当てた。菊地の身体がピクリと反応する。
「しっかりとマーキングするからな」
ヒートが来ていないから、番の行為が出来ない。それなのに、菊地はコテージに他のオメガと出かけるという。そこにはアルファも来ると言うのに。オメガが集まればアルファも集まるということを菊地は理解していない。
だから、一之瀬は菊地に、しっかりとマーキングをしたいのだ。
「あっそんなの、無理」
虚ろな記憶にあるのは、自分のものより遥かに大きい一之瀬のモノだ。体格に比例するのか、アルファはベータのモノよりも遥かに大きい。どうしてそんなものが自分の胎内に入ってしまうのか、菊地には理解ができない。
だからこそ、抵抗してしまう。
「この間だって挿入ったよ」
一之瀬はそう言ってゆっくりと腰をすすめる。粘膜がそれに合わせてゆっくりと擦られて、その音が身体の中に響くようだった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
口から息を吐くように、菊地が嬌声を上げた。
どこまで入ると全部なのか分からない。けれど、自分の胎内に入り込んだ一之瀬が、動いていることは確かだ。前に後ろに動いては、菊地の胎内を押し広げていく。それが痛くないのが不思議だ。
一之瀬の動きに合わせて菊地の口からは声が漏れるけれど、言葉では無いため一之瀬は緩く唇で弧を描く。
菊地が自分を感じて反応する様がたまらない。
「俺の匂い、沢山感じて」
一之瀬はそう言って、さらに自分の匂いを濃くしていく。
「あっ、あつ、い。お腹、熱くなる。あつい」
菊地がそう喚くと、一之瀬はますます匂いを濃くする。さらに深く、菊地の胎内に自分の匂いをマーキングしていく。
「熱いの?和真のなか熱いね。熱いの治してあげるから、少しがまんしてね」
耳元で優しく囁くと、菊地は素直に頷いた。
その反応も一之瀬は、たまらなく嬉しい。
汗ばむ肌を菊地の肌に擦り合わせれば、そこにも自分の匂いがマーキングされる。どこもかしこも、菊地の肌に髪に、自分の匂いを擦り付けて行く。
「も、もう、むり。あっ…あぁ、もう」
菊地が必死で一之瀬の背中に手を回して、小さな爪を立ててくれば、その痛みが一之瀬の中で喜びに変わる。
「いまね、沢山の薬を和真の胎内に注いであげる」
菊地の膝をさらに押し込んで、体に着くほどまでにすると、一之瀬は自身をそれに合わせて深く押し込んだ。先端が入口を捉えたのが分かる。
ここ、ここに注ぎ込む。
今は閉じているけれど、いつか確実にこのなかに。
「……ぁあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
一之瀬がさらに腰を押し付けると、菊地の身体がひきつるように反応した。
「全部注ぐから、ちゃんと受け止めるんだよ」
小さく痙攣し続けるような菊地の身体を優しく撫でながら、一之瀬は菊地の胎内に全てを注ぎ込んだ。
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