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第4話
深夜のファミレスは閑散としていて。
どこか淀んだ色を湛えていた。
「何にしようかな」
彼がメニューを開く。
でも、腹はそんなに空いてないんじゃないだろうか。
少なくとも、俺はそんなに空いてない。
俺もメニューを開いた。
ちらほら眺めるけど、メイン料理のページは開きもしない。
結果、俺はドリンクバーと、サラダを頼んだ。
ドリンクバーだけだと落ち着かない小心者……。
「俺もドリンクバーつけよ」
そうして彼はそれに加え、季節限定のパフェを注文した。
結構しっかりしたものを食べるなぁと思ったけど。
楽しんでほしいと願う心情が勝る。
彼の地元にないファミレスなんだから。
食べたい物をじっくり堪能してもらいたい。
二人してブラックコーヒーを飲みながら、料理が来るのを待った。
ちらりと彼を覗う。
なんだか、昼間より彼がぼやけて見える。
単に眠気のせいで、俺の眼がぼやけているだけか?
いや、彼もきっと疲れたんだろう。
俺がサラダを食べて、彼がパフェを食べたら。
名残惜しいけどお開きにしよう。
二杯目のコーヒーを飲みつつ。
彼がパフェをつつく姿を目に留める。
「美味しい」
彼はそう呟くけど。
実際はクリームの先をスプーンで少し掬って食べるだけ。
そんな小さな一口を、ゆっくり繰り返す。
駄目だ、ずっと見ていたいけど、見ていたらどんどん眠くなる。
俺はぎゅっと目を瞑り、二杯目のコーヒーを飲み干して。
眠気覚まし、三杯目のコーヒーを取りに行った。
目の前の彼は相変わらず、ちびちびパフェを食べている。
そろそろコーヒーにも飽きてきた。
眠気が変な形で飛んでしまって余計に体がだるい。
「美味しくない?」
そう呟いた自分の音に、頭が揺れる。
「ううん。美味しいよ」
彼はそう言いながらまた一口食べたけど。
既にクリームはだいぶ溶けていて。
グラノーラに沁み込んでいた。
パフェの長い旅を終えた彼は、あと一杯だけと席を立った。
ホットコーヒーを持って戻ってくる。
正直、もうコーヒーの匂いを嗅ぐのも嫌だ。
俺は気分を変えるため、オレンジジュースを取りに向かった。
酸味で目が覚めることを期待しつつ。
……もう腹は大海原だ。
また彼が少しだけコーヒーをすする。
俺も唇を濡らす程度にオレンジジュースを飲んだ。
僅かに減っていくコーヒーとオレンジジュース。
もう、結構眠い。
多分、寝られないだろうけど。
疲労に頭が揺れる。
ああ、なんて不甲斐ない。
彼とこんな近くにいられて。
こんな時間がずっと続けばいいのに、と思いたいのに。
疲労、眠気なんていうものに翻弄されて。
もう帰りたいなどと思ってしまうなんて。
一瞬、彼の頭が揺れた。
「眠い?」
どうか『うん』と言ってくれと期待しつつ尋ねるが。
「ううん。大丈夫」
彼は淡い笑みを浮かべて頭を振った。
……今、はっとなったよな?
頼む、正直に言ってくれ。
別れるのは名残惜しい。
でも、もう眠い!
このまま一緒にいるのならせめて。
……ホテルに移動させてくれ!
勿論、いやらしい思惑はない。
もっとゆっくりできる所に行きたいだけ。
だから、頼む!
俯いてひたすら疲労と眠気に耐えながら祈る俺。
突如、ダン、と音がして。
同時に、俺の視線が彼に向いた。
「え……」
俺は眼前の光景に唖然とした。
前にはテーブルに突っ伏して。
動かなくなってしまった彼がいたのだから。
少し零れたコーヒー。
あまり量は減っていない。
きっと、このコーヒーが飲み干されることはもうない。
その予感を打ち消さんがために彼の肩を揺すったけど。
その黒い頭の下からは、健やかな寝息が漏れていて。
「嘘だろ……」
俺の口からも思わず声が漏れた。
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