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第6話
俺はそっと店内を見回した。
当然、席が空くのを待つ人はいない。
幸い、店員の姿も見当たらない。
休憩室にでもいるんだろうか。
それならありがたいんだが。
足音が聞こえた。
その音にちらりと視線をやる。
見回る店員の足音だと分かり。
世の中そんなもんだ、と呟いた。
俺たちの傍を通り過ぎる時、店員の視線が少しだけ彼に落ちた。
分かってます、ごめんなさい。
寝るのはご遠慮ください、ですよね。
そんな言葉を想像し。
俺は必死に言い返せそうな材料を探した。
咄嗟に残るオレンジジュースに口を付ける。
『俺がまだ飲んでるんだからいいですよね?』
そんな顔で。
俺の心情を察してか、店員は無言で通り過ぎた。
良かった。
でも、このオレンジジュースだけが命綱。
これ以上はもう飲めない。
命綱は少しずつ消えていく。
どうしよう。
やっぱり小心者の俺。
そうしている間にも、頭が揺れる。
まずい、俺もここで寝てしまったら。
アウトだ。
俺は最後の力を振り絞り、会計を済ませ。
眠る彼を担いで、店を出た。
彼を担いだまま、真っ暗になった街を歩く。
華奢な彼とはいえ。
疲労と眠気にやられた体で担ぐのはかなりつらい。
途中、駅に停まっていたタクシーに乗り込み。
宿泊するホテルまで戻った。
ボロボロの体で彼の服を脱がせて、着せて。
ベッドに寝かせた。
こんな状態でも全然起きないんだから。
彼はかなりの熟睡型だ、と思った。
俺は残る僅かな力でシャワーを済ませ。
ベッドに倒れ込んだ。
……ダブルベッドに。
勿論、彼が来た時のことを考えて、ではない。
単に広いベッドで寝たかったからだ。
傍で、彼が寝息を立てていた。
規則正しくて、心地がいい音。
そんな音を聞いていたら。
だんだん、なんかよく分からなくなってしまって。
ああ、良かったとか訳の分からないことを呟いて。
少し彼の頭を撫でたりなんかしていたら。
今に至ったわけだが――。
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