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第144話

「とっても素敵ですわ」 「ですが、あの別荘は雨季には向きません。この王都よりも雨は頻繁に降りますし、足場も悪くなりますからね」  アシェルに手ずから紅茶を注ぎつつ、ルイはメリッサが続けて言いそうなことをさりげなく拒絶した。確かに国全体が雨季に入るが、地方によってその頻度や激しさは変わる。北は国の中で一番と言って良いほどに雨は頻繁で激しい。北に別荘を持つ他の貴族も、雨季の間はその別荘に近づきもしない。北の別荘が真価を発揮するのは夏だろう。 「では雨季が終わって晴れ間が続くようになりましたら、ダンスパーティーをいたしませんか? ぜひ私も、公爵様がお持ちの中で一番美しいといわれる別荘を拝見させていただきたいのです」  カロリーヌのように、美しい別荘で綺麗なドレスに身を包み夫であるウィリアムとダンスを踊りたいのだろう。アシェルが結婚することによってノーウォルトは公爵家と姻族関係になったのだから、少しのおねだりは許される。メリッサの考えは必ずしも間違いではなく、他のことであればルイもリゼルも拒絶などしなかっただろう。彼らにとって数ある別荘のひとつを貸すなど、どうでも良いことなのだから。しかしルイはメリッサの言葉に困ったような顔をし、ゆっくりと首を横に振った。

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