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第146話
このような場所で、身内の目があるというのに口づけられるどころかスルリと舌が入り込んできて、アシェルは大きく目を見開き固まる。
今、何が起きている?
「おやおや、ルイは熱烈だね」
「まぁ! アシェルお兄さまがここまでの距離をもう許しているだなんて、さすがロランヴィエル公ですわ」
唐突な口づけに多少は動揺したものの、すぐに元に戻ったラージェンとフィアナが流石は新婚だとばかりに微笑ましく言う声が聞こえて、固まってされるがままだったアシェルはようやくジタバタと藻掻き、ルイの肩を両手で押した。
「んぅッ……、こ、こうしゃく――んんんッッ!」
どうにか唇を離して止めるよう訴えようとしたのに、ルイは〝公爵〟の言葉を聞いた瞬間に再び唇を塞ぎにかかった。流石は武官と言うべきか、アシェルの力では押しのけることも逃げることもできずされるがままで、そんな二人の様子にリゼルは豪快に笑った。
「はっはっはっ! そう来たか。だが、これはアシェルが意地悪だとも言えるな。いくらこのような場であっても、結婚したも同然の婚約者から〝公爵〟と呼ばれては息子が拗ねるのも道理というもの」
リゼルの言葉に、アシェルはようやく何故ルイが急に執拗なほど唇を塞いでくるのかという理由に気づく。
〝今度また公爵と呼んだら、その時はこうしてずっと唇を塞いでしまいますから〟
脳裏にルイの言葉が蘇る。
そうだ、忘れていた。
ロランヴィエル公爵は有言実行の男だった。
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