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第149話

「ん? どうしましたか?」  首元のリボンを結んでいたルイが不思議そうに首を傾げる。そんなルイの袖を無意識にちょこんと掴んで、アシェルは瞳を彷徨わせた。 「その、もし叶うなら、義姉上の言ったことはただの戯言と思って聞き流してあげてほしい。リゼル閣下には、僕からお願いを……」  メリッサはいつも通り至極無邪気で前向きな事を言っただけだと軽く考えているかもしれないが、ルイやリゼルはそうは思わないだろう。既にアシェルの肩書はノーウォルトの三男ではなく、国王が許可したルイ・フォン・ロランヴィエル公爵の婚約者なのだ。そのアシェルに言った言葉を考えれば、ルイがノーウォルトを敵視してもおかしくはない。貴族とはそういう世界だ。体面や身分の上下を何よりも重視し、無礼は許されない。 「……ノーウォルト夫人にも、ウィリアム殿にも、何をするつもりはありませんのでご安心を。父も隠居した身ですから、私の意志を差し置いて何かをすることもありません。ですがアシェル、あなたが言葉にすべきなのは本当にそれだけですか?」  ノーウォルトに何かをするつもりは無いとの言葉に安堵するが、同時に首を傾げる。

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