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第180話

「フィアナ、嫌なことを聞くかもしれないけれど……。父君も、ヒュトゥスレイかい?」  病に伏して長いフィアナの父は、平均的に見てまだ寿命を迎えるには若い年齢だ。ラージェンがそう考えるのも仕方のないことだが、フィアナはゆっくりと首を横に振る。 「いいえ、お父さまは病ですけれど、でも、ヒュトゥスレイではありませんわ。病に侵されていても、お父さまの記憶も意識もはっきりしていますし、ヒュトゥスレイは人から人へうつる病ではありませんもの」  それでも病は病。もう父の命もさほど長くはないだろうと医師からは告げられている。それは隠しようもなく、だからこそ貴族たちは影でコソコソと囁き合うのだ。  ノーウォルト侯爵家は呪われている、と。 「……ねぇ、ラージェン。私、未だに思いますの。どうしてあの時、私は水色のドレスなんてお兄さまに強請ったのかしら、って」  美しい母が着ていたドレスに憧れて、どうにか妹の機嫌をとろうとしたアシェルに、フィアナは無邪気で残酷なドレスを強請ってしまった。 「フィアナ……」 「どうして、お兄さまの記憶に残った私は、水色のドレスを着ていたのかしら」  もしもドレスが桃色だったら、陽だまりの色だったら、あの日の悲劇は起こらずアシェルは今も楽しく笑っていてくれただろうか。

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