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第209話

「近頃の王妃殿下はお忙しくされていますからね。何か言伝があるのでしたら、お伝えしておきますよ?」  妹に会いたいのならばルイに伝えるのが一番だろう。フィアナも望めばラージェンがどうにかするに違いない。しかし――。 「いや、何も。会ったらと思っただけで、わざわざ王妃の予定を変えるようなものではない。気持ちだけもらっておく。ありがとう」  それに、いま会っては気づかれてしまうかもしれない。会いたいという兄としての純粋な欲もあるが、会いたくないという兄としての想いもある。 「半日ほど空けてしまうから、エルが寂しがってしまうかもしれないけど」  今は主たちの眠りを妨げぬよう別の部屋で使用人が見守っているエルピスは随分と寂しがり屋のようだ。起きている時にアシェルの姿が見えないとミャーミャー鳴いて探しまわり、最終的にはアシェルがよく使用しているクッションに顔を埋めながら不貞腐れたように眠っている。その姿が可哀想で、毎回胸が締め付けられるのだ。かといって、外出にエルピスを連れて行くわけにはいかない。  ネコは犬と違ってスルリと身を変化させる。一度逃がしてしまっては見つけるのはほぼ不可能になってしまうだろう。良い子でお留守番していてくれたらいいのだが、と顔を曇らせるアシェルに、ルイは微笑みながら手を伸ばしてモノクルを取り、ゆっくりと横たわらせた。

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