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第210話
「エルピスのことは屋敷の者にお任せください。最近は慣れてきたのか、ご機嫌をとるのも上手くなってきたようですよ? ベリエルお手製のおやつも随分と気に入ったようで、食べた瞬間からおかわりを強請っているようですし」
まったく、と少しも呆れていない声音で言うルイに、アシェルもつられて小さな笑い声を零す。
「笑いごとではないのですよ? アシェル。エルピスは自分の可愛らしさを理解しているのか、おやつのおかわりが貰えないとなると、それはもう俯いて哀れっぽく鳴くのです。あまりに哀愁漂うその姿に、罪悪感がすさまじいことになると使用人たちが嘆いているのですから」
まるでおかわりをあげない自分が人非人のようだ、と眉間の皺に指をあてて俯くベリエルの姿は、幼い頃からずっと冷静で完璧な執事とは程遠く、それこそ人間らしくて少し微笑ましく思ったのは秘密だ。
ルイはサイドテーブルにモノクルを置くと自らも寝台に横になり、アシェルの肩まで掛布をかける。サラリと頬にかかる白髪を指で避けてやれば、アシェルはクスリと笑った。
「我儘を言って、思いのままにおねだりできるくらいこの場所に慣れてきたのだろう。強請られる方は忍耐と罪悪感との戦いかもしれないが、エルピスにとっては良いことだ」
安心して心のままに振る舞えるのは、エルピスにとってここが己の居場所になったからだ。自分を害する者がいない場所。自分を愛してくれる場所。エルピスにとっての、我が家。
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