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第215話
「少し遅くなってしまったかしらと思っていたのですけれど、ロランヴィエル公が見えたのでお兄さまにお会いできるかもしれないと少し期待しておりましたの。どうやら私の予想は当たっておりましたわね」
悪戯っ子のように微笑むフィアナは大変に可愛らしいが、アシェルとしては妹の後ろに控えるルイの方が気になって仕方がない。どうして正装なのだろうと内心首を傾げていれば、アシェルの視線に気づいたのだろうルイが優しく微笑み、アシェルに近づいてその手を取り、口づけを落とした。
「どうしてここに……? それにその恰好は……」
ルイはいま仕事中のはずで、彼は第一連隊であるからフィアナの護衛も管轄外のはずだ。わざわざフィアナの護衛をしてくれたのかと一瞬頭に過ったが、しかしそれならばフィアナの言葉に矛盾が生じる。何より、なぜ彼は正装なのだ。
グルグルと答えの出ない悩みに何度も何度も瞬きを繰り返すアシェルに苦笑して、ルイは落ち着かせるようにポンポンと手を撫でた。
「まだ婚約者という立場ではありますが、やはり義母君にはご挨拶すべきかと思いましてね。貴族としての黒い礼服でも良いかと思ったのですが、軍人はこの正装用の軍服が最高位の礼服となりますから、こちらを。連隊の方は副連隊長に任せてきたので問題はありません。元々、休みが溜まりに溜まっていて、早く休み申請を出してほしいと部下に泣きつかれていたものですから、いい機会ですので半休を申請してきました」
アシェルに見合い、そして迎え入れるだけの力を持つために必死になっていたら、気づけば使っていない休みが溜まりに溜まっていたなどということは秘密だ。もっとも、フィアナは勘付いているのかクスクスと楽しそうに笑っているが。
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