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第216話

「今のお兄さまを見たら、きっとお母さまも喜んでくださいますわ。ね? そうでしょう?」  母の墓碑に視線を向けて、フィアナは穏やかな笑みを見せた。それを皮切りにお喋りを止めたルイはスッとアシェルの隣に並び、フィアナは持ってきていた手向けの花を捧げた。ルイとフィアナは膝をつき、三人で手を合わせる。無言の時間に各々は何を話したのだろうか。しばらくの沈黙の後に顔を上げ、しばらくフィアナを一人にしてあげた方が良いかとルイに視線を向けた時、ルイが勢いよく立ち上がり、流石は武官と言わんばかりの素早い動きで後ろを振り返った。アシェルには見せることのない鋭い視線を遠くに向けているその姿に、何が起こったのかとアシェルとフィアナが瞳を揺らした時、地鳴りのような、それにしてはそう大きくない音が聞こえた。 (これは――)  聞いたことのある音。これは地鳴りではない、馬蹄の音だ。 「こちらに向かってきますね」  ルイの言葉が聞こえたわけではないだろうが、フィアナの護衛として少し離れた場所に控えている近衛たちもまた、腰の剣に手を添えていつでも抜刀できるように構えている。  馬蹄の音が大きくなると共に、ようやくアシェルの目にも馬の姿が見える。少し前にフィアナはその姿を認識していたようで、やはりモノクルで補おうと視力は低下しているのだなと少し落ち込むが、今はそんなことを考えている場合ではない。  何か嫌な予感がする。アシェルが目を細めた時、ルイは突然に警戒態勢を解いた。  え? と目を見開くアシェルに、ルイは振り向いて大丈夫だと呟く。 「近衛の者ですね。隊服も近衛のものですし、あの顔も見たことがあります。間違いないでしょう」  まだ顔が認識できる距離ではないというのに、ルイはなぜ見えたのだろう。彼が精鋭部隊である第一連隊の隊長を任されている鱗片を見たような気がしてアシェルが身震いをしていると、軍馬はすぐにこちらまでやって来て護衛達の前で止まり、飛び降りた近衛が走り寄ってフィアナの前に膝をついた。 「王妃殿下、城よりの伝令でございます。お父君、ノーウォルト侯爵ハンス様がご危篤との知らせが」

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