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第281話

「第一連隊副連隊長マルス・ロウ・バレイビナ。拝謁を叶えていただき、ありがとうございます」  淡い金色の髪を撫でつけた男は、ルイとは真反対で隊服の上からわかるほど筋肉質な身体をしており、どこか圧迫感を覚える。まさしく百戦錬磨の猛者という風貌の彼はルイの前に連隊長を務めていた男であるが、まだ年老いたという訳でもないというのに王に自ら願って連隊長の座をルイに譲り渡した変わり者でもある。 「悪いが、話があるなら手短にお願いしよう。少し急く要件があってね」  アシェルの事を思えば、ここで長話をして時間を浪費するわけにはいかない。詳細を話すことなく先を急かすラージェンに、マルスはひとつ頷いてチラとルイの方へ視線を向けた。 「おそらく、私の話は陛下の仰る急ぐ要件に関わりのあることでしょう。僭越ながら、これでも連隊長が入隊されてよりずっと見てきたのです。この、脇目もふらず執着心の強いお方が取り乱して城に来る理由などただ一つ」  だからこそ来たとマルスは笑みを浮かべる。 「陛下。どうか連隊長の好きにさせてやってはもらえませんか。ろくに休みもとらず軍務に邁進してきた連隊長です。ザッとしか記憶しておりませんが、それなりの休みが溜まっているはず。少しくらいならば私がなんとかしましょう。連隊長のためならば、隊士たちも協力は惜しみません。ただし、連隊長は必ず帰って来てくださいね」  隊服を着ている時はあまり表情の変えないルイが、え、と僅かに目を見開く。そんな上司を見てマルスは何を今更と肩を竦めた。

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