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第303話
「辺境で構いません。小さな民家ほどでも構いません。公爵が居てはならないと言われるのであれば、アシェルと使用人だけで住まい、私は決して足を踏み入れることは致しません。倍の税を払えと言われるのであればお支払いいたします。ですからどうか、雨季の間だけ、貴国にアシェルを住まわせていただきたいのです」
どうか、とルイは立ち上がって深く深く頭を垂れる。その姿にシェリダンは瞳を揺らしながらアルフレッドに視線を向け、アルフレッドはそんなシェリダンの髪を撫でた。
「そなたのことも、アシェル殿のことも、ラージェンからよく話を聞いている。そなたが〝公爵〟として我が国を訪れたならば、なんの戯言をと一蹴しただろうが、そなたはただアシェル殿の婚約者としてこの場に立っている。その気持ちは理解しよう」
大国オルシアの偉大なる王もまた、水晶に選ばれた王妃を溺愛する一人の夫だ。シェリダンが危機に陥れば、どんなことをしてでも助けようと奔走する。愛おしい者を守りたいと願う気持ちを、誰よりも理解できる人物だと言えるだろう。
「とはいえ、ここはオルシアで、そなたはバーチェラの公爵。その事実は変わらない。流石に会議にかけなければ正式な返事はできぬが、こちらの指定した土地に屋敷を建て、その屋敷も年に一度、雨季ではない期間にオルシアの兵が検閲すること、護身程度は許可するが、過剰な武器を持ち込まぬこと、屋敷に住む時と帰国する時に必ず城へ報告する条件を呑めるのであれば、前向きに検討しよう」
それは他国の公爵、それも王族を肉親に持つ者への、大きすぎる譲歩だった。思わず立ち上がったフィアナと共に、ルイは深々と頭を垂れる。
「ご厚恩に感謝申し上げます、アルフレッド陛下」
まだ感謝するには早いと苦笑して、アルフレッドは二人に顔をあげるよう促す。確かに、アルフレッドの言う通り必ずそれが通るとは限らないが、アルフレッドの隣でほんの僅か、口元を緩めて微笑んでいるシェリダンを見るに、ほぼ確実に実現するであろうことをフィアナは確信した。隣に立つルイも同じなのだろう、その赤い瞳にはうっすらと膜が張っている。
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