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A day of faithful servants 忠実なる使い魔のとある一日1
わたくしには、妹が数名、いたそうです。
いたそうです、という言い回しになるのは、出生したばかりで『妹がいた』という記憶がないからでございます。
使い魔だって、頑張った一日の出来事を、誰かに語りたい時があるものなのです。手紙でも、したためてみたい。しかし、誰に宛てて手紙を書けば良いのかわからない。父と母は存命するかも知らず、情報によると存在しているはずの肝心の妹達は、一体どこで何をしているのやら。
というわけで、受け取って下さい。
こんにちは、皆様。
「……んっ、やぁ、ん、やめてよ新太! いま抱き締めないで、耳舐めないで! 手も突っ込んじゃダメ、危ないって!」
「ん……じゃ、包丁置いて、俺の相手すりゃ良いじゃん」
わたくしの名前はセバスチャン。雄の三毛猫でございます。
「あっ……も、そこ弄らないで! 料理できな、ああ、んっ」
「なあ、良いだろ?」
「んぁっ、食べる時間、無くなっ、ちゃうよ? それに、あっ、つねらないでっ、はあぁっ、捏ねないで! ああー、もうっ、ちょっと待ってよ新太! 僕っ」
そしてわたくしの目の前で、猫のわたくし以上に鳴かされているお方が、
「今日、調剤の実習でかなり汗かいたから、臭いよ!?」
「直の汗の匂い、すげー好きだし恥じらう姿ちょー可愛いから別に構わない」
「いやいやいやいや、そうじゃなくてっ……っあ! え、ちょっ、舐めっ、吸わない、で! や、あっ!」
わたくしのマスター、魔女の周央直様。そして、
「オーケーオーケー、シャワー浴びたいんだな? じゃあいま入ろうすぐ入ろう」
「ひぁっ! も、どこ掴んでんの!? っふっ、あっ、あ、や、も、バカ新太! っあうぅ」
「セバス」
『ローションならばタオルの入った戸棚の中に準備してございますよ』
「あんがと」
「も、新太ぁっ、んっ、シャワー室、いく、からっ! そんなに先っぽ、くちゅくちゅ、しない、でっ」
「もう先っぽ濡らしてるのは直だろ、くちゅくちゅするのは俺のせいじゃない」
「新太っ、の、せい……ん! ぅんんん」
晩夏からこのフラットでマスターと同棲を始めた、当麻新太様。
「んっふ、新太待っ、ん、口離しっ、セ、セバスっ……けい、しょ、んっくっ、ん、んん」
『軽食ですね、作っておきますよ、サンドイッチ。大きくなりますがよろしいですか』
「ぷはっ、やっ……セバスっ、まで、おっきくなるとかエロいこと言わないでっ!」
『わたくしが調理の為に人型になるという意味ですよ! マスター方のシモの事情など』
ばたん、とシャワー室の扉が閉まり、静まり返ったキッチンの前には、わたくしひとりが取り残され。
鼻から息を大きく吹き出します。
気合いを入れ、右前足を床にとん、と下ろし、マスターが部屋を囲むように敷いて下さっている魔法陣のひとつを使い、人型になりました。
そして包丁を手に取り、中途半端な状態で放り出された野菜を切ります。
いいえ、別に不満などございませんよ?
マスターの為になることが、使い魔の喜び。マスターの幸せが、わたくしの本望です。
おふたりが同棲するまでには、短いようで、しかしかなりの時間と手間を要したかと存じます。
沢山の魔女様方の力を借り、遠方と遠方を繋ぐ特殊な空間を作り上げ、儀式を行った時から二年と少し。
おふたりには再会までの間、手紙のやり取りしか許されておりませんでした。言葉でもって互いを励まし、愛を確認しながら、マスターは修行兼進学のための勉強を粛々と行い、新太様も様々なこと――実は、新太様に関しましてはあまり詳しく存じ上げません。ご本人も、積極的には語られませんので――を行いながら、ここスコットランドにある大学へ進学する手筈を整えてこられました。
つけ加えますと、おふたりは同じ大学に進学されましたが、マスターは医学部魔法学科、新太様は確か、ファウンデーションコースという準備期間を経て、経済学部にお入りになる予定だったと存じます、所属は別々です。
「沢山の人に支えられてきたよ、自分の力だけじゃどうしようも無かった。本当に、ありがたいよな」
そう言って笑う新太様を見ておりますと、マスターが選んだ方がこの方で、良かったと思うのです。
思うのですよ?
しかし実際生活が始まってみますと、その、もう、至る所で致そうとされるのでございます。年がら年中発情期、と申しましょうか。
特に新太様は先程のように、隙あらばマスターの身体を弄り、繋がろうとされます。
新太様が、二学年上となったマスターのフラットに入る形で始まった同棲生活。
そもそも引っ越してきてから最初の一週目は、新太様の入学に必要な備品等を揃えるための猶予期間だったはずなのですが、初日から五日間は寝室にほぼ籠りきりのヤりまくりで費やされてしまいました。
準備にかけられる時間が二日間しかなく、慌てに慌てておられました。自業自得でございます。
会えなかった期間がそうさせたのだと思えば、仕方の無いこととは存じますが。
大学が始業致しましたら、おふたりは平日日中大学へ通いつつ、カヴンから召集がかけられた夜や週末にはグラント家へ、という生活スタイルが定番となりました。
それから数ヶ月。日常が始まればこの発情期、治るかと思いきや隙あらば! の状態なのでございます。
おふたりの、数え切れないほどの濃密なまぐわい。
はて、本当にこの方で良かったのかしらん、と思うのは可笑しなことでしょうか?
まあ、マスターも心得たもので、新太様から受けた精を余すところなく魔力に変換させる魔法陣を、とうとう完成されましてございます。
従来の魔法陣ですと、陣の上で 性魔術 を致さねばなりませんし、定められたやり方を踏襲するのも、下準備も大変ですからね。
更に、新しい魔法陣を描いたラグまで作成されました。毎度、複雑な陣を一から描くのも大変だし、これ以上床に魔法陣を設置するのも後々手間だから、という理由なのだそうです。
「これで、どこででも、たっぷりヤれるな」
と、新太様は、それはもう大層喜んでいらっしゃいました。その解釈は、どこか間違っている気が致します。
兎にも角にも、お陰様でマスターもその使い魔であるわたくしも、愛情たっぷりの魔力に日々満たされ続けております。
ふむ、良かった、のでしょうかねやはり。
さて、考えておるうちに、ごく普通のチキン入りサラダサンドイッチが、耳まで焼けるホットサンドメーカーでプレスされ、とろけるチーズ入りホットサンドに変身致しましたよ?
このわたくしの手際の良さ! 全くもって、賞賛に値するかと存じます。
どうせおふたりはヤバい時間が無い! と、慌ててシャワー室から出て来られるに違いありません。結局、軽食を召し上がられながら車を飛ばして(申し訳ありませんが、比喩です。魔女だからといって本当に“飛ばし”はしません)グラント家に向かわれるのです。ホットサンドの方が、食べやすうございます。
ええ、ええ、慣れております、というか慣れました、毎度のことですので。
さてさて、水筒に温かいイエルバマテ茶でも入れて差し上げましょうかね。
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