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What I will become 何になる?4

「は!? え、一体、どういう」  完全に、寝耳に水だ。口を開けっぱなしの俺に、パティは冷静に話を続ける。 「魔女宗の関係者は基本的に、力に対しての欲がないわ。もちろんカヴンによって方針は違うけれどね。  対して、魔術師や呪術師は、権力や力の増幅を求める者が比較的多い。  そういう人達であれば、どこにも所属していない強い魔法使い候補者を自分の陣営に引き入れようと動くのは、当たり前の反応でしょうね」 「強い、魔法使い候補者!? まさか、俺が?」 「貴方、ベルテインの会場から帰った後の大騒ぎを見ていないから」  お小さい方々(ウィー・フォーク)に連れられて俺とましろがべルテインの会場に辿り着いた後、沢山の人に囲まれたし、騒がれたのはもちろん憶えている。でも、べルテインの儀式が始まって、周りの俺達への関心は薄れたと思っていた。  で、直の様子がおかしくなった後、一刻も早く直を家に連れて帰りたいと思った俺は、お小さい方々(ウィー・フォーク) に、また道を開いてもらえるよう頼んだ。  俺達が何の問題も無く無事に帰宅出来たことが、後に残された魔女達にとってかなり衝撃的なことだったのだと聞かされたのは、べルテイン後、初めてグラント家を訪れた日だった。  お小さい方々(ウィー・フォーク)と共に勝手に家と会場を行き来したことに対して説教を食らうだろうと覚悟していたのだが、叱られなくて少し、拍子抜けしたのを思い出す。  兎にも角にもだ。  たった一度の出来事であれば、お小さい方々(ウィー・フォーク) の気まぐれや偶然で済む。だが、興奮冷めやらぬ内に二度目が、目の前で行われた。  俄然、俺に対して関心が高まったのだと聞いた覚えは確かにあるが、実感は全く無かった。 「や、だって俺が何か出来るのって、全部偶然だろ? ベルテインのは偶々、お小さい方々(ウィー・フォーク) が乗り気だっただけだし……帰りも俺、直のことしか考えてなくて、連れてきてもらえたなら、また頼めるだろくらいにしか思ってなかったんだ。  そもそも、直に出会う前はこういう世界に全然縁はなかったし」 「偶然も偶々もお小さい方々(ウィー・フォーク)の気まぐれも、全部お前の才能さね」  それまでずっと黙り込んでいたダイアナが、口を開いた。 「お前は、魔法使いとしてはかなり恵まれているんだよ。環境も、才能も」  ソファの背凭れから身を起こしたダイアナは、俺をじっと見つめる。 「お前が最初に見たのは、ナオの魔法だね? まず、それが良かった。あの子は魔法の失敗が少ない。とても優秀な魔女だ。  お前が世話になった『森と結界の守護者』もそうだ。あのカヴンに所属するメンバーの魔法の実現率は、かなりのものだよ。だからこそお前は“準備されているものがあれば、魔法は発動できるものだ”と、認識できたろう?  魔法使いになろうとする者が越えなければならない最初のハードルは、魔法という、目に見えない事象が“実現する”ものだと認識できるかどうかだ。一般的には、この認識と実現の習得にかなりの時間を要する。どれだけ時間を費やしても、習得出来ない者は一生涯出来ない。  お前は、目の前で起こった事象をしなやかな心で受け止め、自分のものとした。“実現する”を、己の中で可能にしたんだ。  そして極めつけ。魔女の魔法は、女神、男神を信じる意志の強さでもって魔法を発動する。お前には、お前の中に強固な、ナオという女神の存在がある。しかも目の前に、常に実在する。だから確実に魔法が使えるし、その威力は強い。  ついでに。推測の域を出ないが、以上の性質を持つお前だからこそ、お小さい方々(ウィー・フォーク) にも気に入られたのだろう。  ここまで恵まれている魔法使いは、そうはいない。  それにアラタ、お前、自分で言っていたじゃないか。ナオの詠いを真似て、魔法を発動できるようになっているんだろう? 最早全く魔女ではない、と言い切れる立場にはいないんだよ」 「いや、それは……」  俺は本当に、喋り過ぎていたようだ。 「違うんだ、ダイアナ。俺は直だけを信じている。直が発動できる魔法だから、俺も発動できるんであって、俺自身が詠いの女神男神を信じてるってわけじゃない。俺自身の力じゃないと思ってる。だから俺は、魔女にはなれない」  ダイアナが、分かった分かった、と言いつつ、手を軽く振った。 「無理強いしたいわけじゃない。ただ、お前の特殊な立場を説明したかっただけさ。  ともかくだ。ナオもだが、お前ももっと自覚した方が良い。危なっかしいったらありゃしないよ」  自覚。自覚なんて、どうすれば自覚したことになるのか。俺がすげー魔法使いになれるかも、って?   んなバカな。俺は首を振りながら、ソファの背もたれにもたれかかった。 「グラント家に来る問い合わせについては、うちで留めておくことはできる。  私らはね、お前に納得のいく道を選んで欲しいんだよ、アラタ。だからいまの内に、色んなものを見て、聞いて欲しい。将来についての情報は、多ければ多い方が良い、選択肢が広がるからね。  ……さて、アラタ、こないだの件だ。先方にはお前から連絡をすると伝えている。これが、研究室のメールアドレスだよ」  ダイアナが差し出した小さな一枚のメモを、ソファから立ち上がり受け取る。  俺の今日の本来の用事は、この小さな紙きれにあった。 「物事を選ぶ際、情報は多ければ多い方が良い。  しかし、何を選ぶにしても、慎重に、熟慮して決めるんだ。決して、目先のことで飛びついては駄目だよ。この件に関しては、特にだ。  この話は、お前の望む未来の、ひとつの形を提示している。だが、お前ひとりで実行できることではない。実現できる確証も無い。いわば、被験者として求められていると考えなさい。  そして、彼らも決して無償で動くわけじゃない、見返りは必ず求められるだろう」 「絶対に、その場で返事をしては駄目よアラタ。必ず、この家に話を持って帰りなさい」 「もしもその場で決定を求められた場合は、『森の守り手』ダイアナに厳命されている、と答えるんだ。何が起ころうとも、解放はしてもらえるだろう」  ダイアナとパティが、まるで銃弾の連射のように言葉を投げてくる。 「そこまで用心しないといけないのか?」 「し足りないくらいさね。気をつけるに越したことは無い。彼らは魔術師だ。魔女とは違う信念を持っている、魔法使いだよ。しかも、大学所属のね」 「大学所属ってのも、何かあるのか?」  ダイアナは両肩を上げた。 「その内、分かるだろうさ……マシロ、お前も、くれぐれも気をつけておくれね。何かあった時には必ずアラタを守っておくれ。頼りにしているよ」 『ええ、畏まりましたわ』  いつの間に俺の影から出てきていたのか、ましろはダイアナに返事をしつつ、俺の膝にひょいと乗ってきた。  ダイアナも、パティもスーも、不安そうな目で俺を見てくる。俺の信用が無いというよりも、本気で相手を警戒しなければならない、と考えているらしい。 「そんなに心配すんなよ。情報だけ聞き出して、その場で即決しないで、ここに話を持ち帰えって、考えりゃ良いんだろう? 必ずそうする。大丈夫だ、やれるって」

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