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What I will become 何になる?8
魔法薬局一階にある第二カンファレンスルーム――白い長机が一台、椅子が十二脚用意されている――が、チーム初顔合わせのために指定された部屋だ。僕は、約三十分前から椅子に座って待っていた。
ノック音、続いて勢いよく扉が開かれると、
「や、久しぶり、ナオ!」
「わー、ロビン! 元気? プロジェクトにロビンが選ばれて、すっごく嬉しかったよ! 若手研究者育成プログラムだからなのかな、院生が参加するのって」
ロバート・アシュトンが、両手を広げながら入ってきた。相変わらずの瓶底メガネ姿に思わず顔が綻ぶ。僕の大学での、たったひとりの友人だ。僕は席を立ち、軽いハグで彼を迎えた。
「うん、そういう風に説明を受けたよ。ちなみに学内では公募制だったんだ。君の名前を見つけて自分から即、応募したんだよ。大学院と大学病院勤務ならどっかで会えるだろうって思ってたけど、全然だったろ?
ぼくは元気さ、ナオは?」
「元気……でも、これからのことを考えるとちょっと、へこたれそう」
「ははっ、贅沢な悩みだな! 忙しくなるのは仕方ないさ。それより、入局数ヶ月足らずからの大抜擢を喜べよ」
「ううん、そっちじゃないんだけど。そうだロビン、自分の研究の方は良いの? 大学院って、一年しかないよね」
「君が手伝いを必要としているなら、それに馳せ参じるのが友達ってもんだろ」
「ううう、ありがとう」
「気にするなよ、並行してやるさ! そのくらい、屁でもない」
「じゃあ、論文完成が遅くなっても、僕のせいにならないね」
「ははは、そういえば君って、結構いい性格してたんだったな、うっかり忘れてた」
ふたりで笑い合っていると、大きな咳払いと共に、女性がふたり、入室してきた。
「……なにあれこわい」
ロビンが、僕にだけ聞こえる程度の極小の声で呟いた。リー先生とクラウスナー先生だ。部屋を移動して行くふたりの、僕に向ける視線が大変鋭い。
ふたりは一番遠い席に座る。
続いて入室してきた一際背の高い暗色の肌の女性が「ハアイ」と挨拶し、女性ふたりの席と、僕が座っていた席のちょうど真ん中あたりに着席する。
ロビンは僕の隣に座り、結果、長机の片側だけが空くという、不思議な陣形になった。
顔合わせに参加してもらえない可能性もあった。仕方ない、良しとしなければ。
「ええと、これでプロジェクト初期チーム全員揃いました。では早速ですが、今回のプロジェクトについて説明します」
僕は、縦長に並んだチームメイトを前に、気を取り直して説明を始めた。
「……以上が、僕らに与えられた任務です。
先ほど言った通り、研究の進み具合を鑑みて、人数が更に追加される予定です。時期は未定。
では、初日は来週月曜日から。場所は大学の研究棟五階にある魔法学科の第八研究室を借りていますので、そこに朝九時集合でお願いします。
勤務時間内にプロジェクト活動が行われることは、みなさんの所属部署に通達済みですが、念の為、ご自身からも申告しておいてください。
僕からは以上です。何か、質問は」
と問いかけた辺りで、リー先生とクラウスナー先生が音を立てて椅子を引く。僕は無言で部屋から出て行くふたりを、やや唖然として見送った。
「彼女達、ああいう性格だとは思わなかったわ……びっくり。何があったか知らないけれど、挨拶は、礼儀としてするべきだと思うの」
残った女性が椅子から立ち上がり、颯爽と僕に近寄り右手を差し出す。
「私はカミラ。カミラ・シソコよ。カミラって呼んで。先生とか、つけなくても良いでしょ。これからきっと、長い付き合いになるだろうし。
調剤チームE所属の呪術師よ。よろしく、ナオ」
「スオウ・ナオです。調剤チームC所属の魔女。ありがとう、よろしく」
「ぼくはロバート・アシュトン。混沌魔術師で、院生なんだ。ロビンでよろしく」
各々握手をし終えると、じゃ、と一言残し、カミラは立ち去った。
一連の言動が、凄くスマートだ。歩き去る姿も、やたらと格好良い。
「彼女、モデルとかやれそうだね。手足長いし、顔小さいし、すっごくスタイルが良い」
「うん、モデル業なら学生の頃からやってるらしいよ。そこそこ有名なんだけどな。ナオはほんとに世事に疎いよね。いまも旦那のことしか考えてないんだろ?」
「そんなこと無いよ失礼だな!」
「あるある。そういえばこの前アラタを学内で見かけたよ。彼、いま三年生だよね」
「そう、最近エッセイの課題が激増してるとかで、大学に入り浸りになってきてる」
「ほう、ではあまり顔を合わせていない?」
ロビンは腕を組み、険しい表情を作った。あれ、何か問題でもあるのかな?
「そんなこと無いよ。僕、新太が帰ってくるまで起きて待ってるし、朝食はなるべく一緒に摂るようにしてる。
ありがたいことに、いつも夕方に一旦帰ってきて、夕飯の準備もしてくれるんだ」
因みにその他の炊事洗濯は、大抵セバスがしてくれている。
僕の返答を聞いたロビンは、顔を緩めた。
「そうか、良かった……ご飯と言えば、彼のオミソシルを思い出すなあ。ぼくって普段、食べることに興味無いのに、アラタの作る料理には妙に心を奪われたんだよね。
今度、話しかけても良い?」
「良いに決まってるよ、どうして僕の許可が必要なの? 夕食にだって招待した仲でしょ」
「いや、奥さん嫉妬深いからさ」
僕は、ロビンの肩をグーで軽く叩いた。
「痛てててて、ごめんふざけ過ぎた!
まあ、旦那のことはさて置きだ。リー先生とクラウスナー先生の件だけど。ぼくも、君が彼女らに何をしたのかは知らないけどさ、かなりあからさまだったね。解決方法は?」
リー先生とクラウスナー先生のことだ。僕は唸る。
「僕だって、僕が彼女らに何をしたのか知らないんだよ。解決方法なんて、糸口さえ掴めてない」
「ふうん。ま、リー先生はともかく、クラウスナー先生にまで睨まれるのはちょっと問題だね。彼女、既に次期治療室室長候補に挙がってるって噂だよ」
なるほど、噂の真偽はともかくとして、スピード出世しそうな程優秀だと、周りから見られてるってことか。
「しかし、そうナイーブになる必要は無いだろ。なんたって、このプロジェクトに関してはナオ、君がリーダーだからね」
真正面からがしっと、両肩を掴まれる。ロビンは温和そうな顔をふにゃりと緩めた。
「頑張ってくれよ。ぼくは一歩下がってそっと、見守っておくからさ」
「いやいや、見守るんじゃなくて、ちゃんと参加して!?」
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