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What I will become 何になる?7
それから数日後、室長室に呼ばれた僕を待っていたのは、思いもよらぬ辞令だった。
「え、僕がチームリーダーですか!?」
「君の論文を、他の薬剤師でも使用できるように改良するため、チームを組む。使用する研究室は医学部魔法学科の第八研究室、君の古巣だ。部屋や設備の一部を借りる許可は得た。
研究は、通常業務と並行して行ってくれ。
君の仕事の処理能力が群を抜いることは把握している。管理部が、既に遅延を君の能力で補おうとし始めていることが記録から見ても明らかだった。
君の論文の方法以外で、調剤の時短研究一件、一度に調剤できる量を増やす研究二件のプロジェクトが立ち上がっているが、まだ成果は出ていない。期待している」
ちなみに、とグレン室長は続ける。今日の室長は、こちらを見てくれているのだけれど話が一方的で、口を挟む余地が無い。
「ゆくゆくは、あらゆる魔法使いが現場で使用できるレベルにまで到達することを想定している。魔女独自の魔力発動ではなく、どのような魔力発動の仕方でも対応できる仕組みを求める。
よって、他のメンバーは魔女宗 以外、調剤師以外。また、若手研究者育成プログラムを適用させている関係上、大体君くらいの年齢の者を集めた。
明日初顔合わせだ。プロジェクトについての大まかな説明は君に任せる。心づもりをしておきなさい」
メンバーリストと資料を手渡され、室長室を早々に追い出された。
その後は調剤室に戻り、通常業務をこなす。リストをきちんと確認できたのは、帰宅してからだった。
「こ、れは」
僕は、口元を押さえる。メンバーには、嬉しい人物が含まれていた。だけどこれは……
『大丈夫でしょうか、心配です』
夕食の片づけを終え、猫型に戻ったセバスがソファに座りリストを眺める僕の横から口を挟んできた。
『いくらマスターの魔力量が人より多いからと言って、更に仕事量が増えるだなんて』
「今後増えそうな仕事量を軽減するためにいまは辛抱しろ、ってことだろ。しょうがないよ」
『それにこれ、いつも調剤の材料をわざと多めに入れて嫌がらせをしてくる方ではありませんか』
最初は何かの間違いだろうと思い、メッセンジャーに頼んで増量されていた分をリー先生に直接渡してもらったのだけれど、その後再び現れたメッセンジャーから「大変冷たく対応されたのでもう二度と頼まないでくれ」と言われた。
その後も一向に改善されなかったので、これは嫌がらせの類なのだろうと判断し、以降、いつもこっそり、セバスに余分な材料を二階の管理室へ返却しに行ってもらっている。
「うん、管理室所属のリー先生だ。道教系の魔術師だったはず。あと、彼女といつも行動を共にしている、クラウスナー先生も入ってるね」
クラウスナー先生は、カバラ系の治療師の先生だ。
ふたりは僕の三つ上の学年で、かなり優秀な生徒だったらしい。講義の最中、パーゼマン教授がふたりの素晴らしさを殊更に褒める場面が度々あったのを思い出す。恐らく僕らにはっぱをかけるためだったのだろう。その時聞いた話だと、クラウスナー先生は、確か主席で大学を卒業したはずだ。
ふたりとは、これまで接点という接点はなかった。だからこそ、リー先生の行動が解せない。
嫉妬、ではないはずだった。僕がプロジェクトリーダーに抜擢されたのは今日の話で、リー先生が僕宛の材料を多く入れ始めたのは入局した当初からだ。
明日から彼女達の心境は、更に複雑なものになるだろう。後輩の卒業論文の研究の延長に参加させられ、しかもチームリーダーは嫌がらせしたくなるほどむかつく、その後輩本人。
「同じ研究チームとしてやっていくなら、大なり小なり、衝突は避けられないだろうね……ま、なるようになるだろ、たぶん」
気にしていてもしょうがない。いま、考えたってどうにかなるわけでもなし。
「材料の間違いは僕が必ず気づけるし、修正可能。不正に持ち出したってことにされないように、こっそりセバスに戻してもらうのも上手くいってる。
ほら、何も困ってない」
『しかし!』
「いまのところ、不安要素は無いよ、大丈夫」
僕はセバスの頭を撫でた。その圧に反発するように、ぐいん、とセバスが頭を上げた。
『無くないですよ! 材料の件だけではないのですから……マスター。もう少し、ほんのすこーしだけ、気にした方が良くないですか?』
「何を?」
『周りの! 目です!』
「目?」
『マスターはずっと、新太様の目にばかり囚われておいでで周りの目がそっちのけになっていらっしゃいます!』
新太の、熱い視線を思い起こす。下半身に効果覿面だ。
「……セバスのエッチ」
『ほあああああ、聞き間違えそうなことを言っていないのに反応するのですか何故ですか!?
良いですかマスター、いまは困っていなくとも、嫌がらせがエスカレートしたらどうするのです!? ともかくこの状況は普通じゃないのですからね、自覚してください! だいたい、ロッカーの……』
途端に、胸の中に広がる、ざわざわとした感覚。
何だろう、何かか引っかかる。
「セバス、もう一回、いまの言葉」
「何、どした、大丈夫か?」
新太が、少し慌てた感じでシャワー室から戻ってきた。バスタオルで頭を拭きながら、パンツ一枚だけを身に着け、僕を心配そうに見つめる。
恐らく、僕達の話し声が気になったのだろう。
「あっ……」
新太の目と、露になった、鍛え上げられた身体。
考えていたことが、一気に吹き飛んだ。伝えなきゃいけないことさえも出て来なくなる。
そうだ、辞令が出て研究のチームリーダーになって、来週からは帰るのが遅くなるかも、って言わなきゃならないのに。
「直、心配事があるのなら俺に……」
「あら、た」
胸が高鳴る。下腹部が熱くなって、あそこが痛いくらいに腫れ上がってしまった。僕はソファの上で膝立ちになり、背もたれ越しに、新太へ手を伸ばす。
新太の薄い唇に、僕の唇を重ねると、温かく柔らかい舌が、僕の舌を出迎えてくれる。
「直、大丈夫か?」
「んっ、ふ。だいじょぶ。大、丈夫、だからっ、もっとっ」
「……ん、了解」
新太は僕の両脇に手を入れ、抱え上げた。
僕は両腕と両足で逞しい身体にしがみつき、そのまま寝室へ運ばれる。
僕はベッドの上に横たえられ、新太の頬に手を伸ばす。頬を触りながら、新太の目をじっと見つめた。
熱い眼差しに心拍数が更に跳ね上がり、切なさが、体中に染み渡る。
僕の穴が、これから与えられるであろう快感への期待で、きゅんと締まる。早く、早く繋がりたい。
ほんとは、ただ新太だけを見つめて、新太のことだけを考えて新太のそばで息をして。
四六時中一緒に過ごしたい。
いま思い返すと、学生の頃はほぼ、そんな感じだった気がする。家の中で一緒に過ごすのはもちろんの事、休み時間もお昼も、新太は僕のところに来てくれていた。学年も、学部も違ったのに。
社会人になってまだ一年も経ってないのに、学生時代に戻りたいって考えるの、早すぎかな。
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