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What I will become 何になる?13※

「直、俺に伝えることはないか?」  久しぶりに、一区切りつけて早めに帰ってきたという新太と一緒に夕食を済ませた後、僕はセバスに入れてもらったハーブティーを飲んでいた。  ダイニングテーブルの向かい側に座った新太が、急に真剣な表情で僕に尋ねてきた。 「伝えること? ええと、僕がチームリーダーになって」 「知ってる」 「ちょっと誤解もあったけど、チームの仲は円満で」 「うん」 「実験自体は行き詰ってて、魔法陣の書き換えが必要になって」 「ああ、前から聞いてる」 「えーと、じゃあ、ロビンが新太に会いたがってた事?」 「もう大学内で会ったよ。直の周りにもっと気を配れと忠告を受けた」  ロビン! せっかく新太に気づかれないようにしてたのに……きっとセバスが聞き込みをしていたせいだろう。そしてセバスを止められなかったのは僕だ。 「ごめん、でも何でもないから」 「ほんとか? 直、正直に答えてくれ。本当に、困ってないか?」 「……困って、ない」 「言葉にしてくれないと、俺には分からないんだぞ? 俺は、直の使い魔じゃないんだ」 「本当に大丈夫だって!」  新太がため息を吐く。 「直が大学一年生の時にあったこと、俺、ロビンから少し事情を聞いてたんだ。だから、髪を切ってくれって頼んだんだよ。大学の中だったら、何が起こってるのか、直に近づいているものが何なのか、気づけたのにな」  思考が完全に停止する。新太は、何の話をしてる? 「直」  新太はテーブルに手を突き、僕に顔を寄せた。じっと、窺うように見つめてくる。 「……ん、マジで効かなくなってるな。全然反応しない」  嬉しいんだか悲しいんだか、と新太はとても複雑そうに呟く。そして僕は、何かを思い出しそうになった。  そうだ、昨夜、夢を見た気がする。あれは何だったのか。胸がもやもやする。  新太の心配そうな視線に居た堪れなくなった僕は、席を立った。 「ごめん、シャワー浴びてくる」  そして寝よう、そうしよう。明日はロビンが新しい文献をいくつか持ってきてくれるはずだ。それを使って魔法陣の文言を編集して、試さなくてはならない。  ユニットバスの部屋のドアが叩かれる音で、はっとする。あれ、僕、身体は洗ったよな、髪も、うん、洗った。  シャワーヘッドから流れ落ちるお湯を浴びながら、自分の行動ひとつひとつを思い起こす。  どうやら、ぼんやり立ち尽くしていたらしい。 「……直、もうすぐ出る?」  少し開けられたドアの向こうから、新太の声がする。僕はきゅ、と蛇口を閉めた。 「うん、もう出るよ。新太もシャワー浴びるよね」  ぴちょん、と水滴の落ちる音が響く。  新太からの反応が無い。 「あの、どうしたの新太?」 「直、いますぐ入って良いか?」  そんなに急ぎで、シャワーを使いたいのだろうか。 「うん、良いよ大丈……」  僕が言い終わらないうちに、ドアが全開になる。新太は既に裸だった。まさか、廊下で全部脱いできたのだろうか?  扉を閉め、無言でずんずんとこちらに向かって来る。シャワーがある場所と脱衣所を隔てるガラスの扉を片手で軽く――実はこのガラスの扉、とても堅いので、僕だと両手で引っ張らなければ動かない――開けて入り、僕の背後にぴったりと身体をくっつけてきた。  新太が僕の股の間に太腿を入れてきて、左の尻たぶに、半勃ち状態のものを押しつける。 「? これって」 「……入る」  新太の指が、僕の窄まりに触れる。生暖かい粘液が塗り込められ、一本、差し入れられた。 「んっ!」  え、いますぐ入る、ってそっちのこと!? 「良かった、柔らかい。時間がかかると、直の体力が持たないだろうから」  新太は僕の耳たぶを甘噛みし、穴の中を優しくかき回しながら指の本数を増やす。新太のものは、僕の尻に押しつけられ、ゆっくり大きく、硬く育つ。 「あっ……んん」  僕は、新太の優しくいやらしい指使いと甘い吐息で身体の力が抜け、壁に寄りかかりそうになった。察した新太が、空いている左腕で僕を抱き寄せる。 「あ、らた」  僕は新太の方を向き、口を開いてキスを強請った。 「んっ、ん!」  舌を強く吸われる。すぐに唇が遠退き、 「入るぞ」  新太は僕の左膝裏の少し上の方を掴んで持ち上げ、穴に性器を差し込んできた。新太の身体と接している面が、穴と中が、凄く熱い。久々の圧迫感。  そっか、僕、最近ヤっていなかったんだ。 「……あっ、はあっ」  すんなりと飲み込んだ割に、お腹がいっぱいで息が苦しい。 「大丈夫か、直? いつもより少しきついな」 「ん……ああっ」  新太が、僕の背中に身体を密着させたまま、右の掌で僕の腰を擦り、そこからまるでマッサージでもするように、体中を撫で始めた。  凄く気持ち良い。手の動きに合わせて深く呼吸すると、次第に息苦しさは無くなった。 「時間はかけない。出すことに集中するからイかせてあげられないかもしれない。ごめんな」  ぼんやりとした僕の頭では、新太の言葉の意味を、すぐには理解できなかった。  新太の右手が乳頭に触れるのと、奥まで押し込められた新太のものが更に深く侵入するのが、同時に起こった。 「っうっ、ん!」  身体が敏感に反応する。意識が与えられる感覚に集中し始めた。乳首を抓られ、捏ねられ発生した鋭い快感は、徐々に僕を昂らせる。  新太は僕の首筋に鼻を擦りつけ、深く呼吸する。軽めのキスと、ねっとりと舐るのを繰り返す。  その間、新太の腰はゆっくり揺れ、僕の身体の奥底から、甘い疼きを引きずり出す。動きはいつもより穏やかなのに、全身から力が抜けて、蕩けそうだ。 「あっ、ん、あら、た」 「ふっ、んっ」  新太の息が、いつもより荒い。  僕は腕を後ろに回し、背中を反らしてもう一度、キスを強請った。  唇が当たり、新太の舌と僕の舌が絡み合う。僕は強く乳首を抓られ、 「んっ、ふんんんっ」  快感の波が来て、身体を震わせた。 「ぐ、うっ」  新太も全身を震わせ、熱い液体を僕の奥に注いだ。と同時に、強く抱き締められ、新太のものが蠢くのがはっきりと感じ取れた。 「ああっ!」    蠢きは僕の一番敏感なところを的確に刺激してきて、僕は達した。 「ぐっ」  新太はまだ出している。更なる熱が、お腹の中を充たしていく。  新太は、ふーっ、ふーっ、と息を何度も吐いた後、人差し指の腹で、僕の甘勃ちしたものを、根元から先端までなぞる。僕は、気持ち良さとくすぐったさで、腰を揺らしてしまう。 「ふっ、あっん、んっ」 「はぁっ。うん、出して、ないな。良い子だ」  ちゅ、と頬にキス。持ち上げられていた僕の左足が、そっと下ろされた。 「直、一旦離れる。俺が中に出したやつ、零さないように締めてて」  し、締める!? 意識的にやったこと無いな、どうやれば良いのだろう?  考える間もなく、新太の性器がそっと抜かれた。慌てて全身に力をぎゅっと入れる。  両肩を掴まれ、くるりと方向転換させられて、新太と向い合せになった。 「両腕、俺の首に回して。しがみついてくれ」  今度は両膝の裏に、新太の両腕が差し入れられ、僕は持ち上げられた。  あ、前にやったことある、あれだ。  股が開かれ無防備になった僕の入り口は、すんなりと新太の侵入を許した。 「は、あああっ」  僕は、両腕に力を籠め、新太に身体を押しつける。しばらくそのまま、僕も新太も動かなかった。素肌が重なり合って、凄く気持ち良い。  鼓動が、僕らの身体を微かに揺らす。  新太の心臓の動き。そして、僕の心臓の動きがはっきりと感じられる。  それだけで、甘い痺れが全身を侵していく。 「直、直。俺を見てくれ」 「あっ」  新太は、あの不思議なバランスを保つ瞳で僕を見ていた。  見つめ合いながら、舌と舌を絡める。  じわじわと胸に、まるで火が灯る様に、ひとつになりたいという強い欲求が沸き上がる。  しかも、今日は何故か新太の瞳の中に、悲しみの様なものが混じっていた。それは、新太の色気を倍増させ、僕の衝動をいや増す。  キスを続けつつ、僕は自分の足を新太の腰に回し、下半身を必死に押しつけ、新太を自分の奥の奥まで招き入れる。 「んっ」 「なおっ」  耳元で、切なげに名を呼ばれる。それだけで僕は絶頂に達し、僕の中は、新太を一滴残らず僕のものにしようと波打つ。 「んあっ、あああっ」 「ぐっ、あ」  再び吐精される。新太は僕の腰をきつく抱き寄せ、奥深くに長く、大量に押し出した。熱いぬかるみが、更に僕の中に増える。  新太が僕を抱え、繋がった状態のまま、ガラスの扉に背中を預けた。ガラスは、僕達の上がった息で真っ白に曇っていた。 「直、落ちないように気をつけて」  僕が頷いたのを確認して、新太は背中だけで扉を押し開く。  廊下に出ると、セバスとましろが待っていた。 『新太様、準備は整っております』 『ナオ、まじないをかけますわね。風邪をひかれては大変ですから』  ましろが何やら、かわいらしい歌をくちずさむ。ぽふん、と自分が一瞬蒸発したような感覚に襲われ、体中の湿り気が消えた。  ましろに声をかけようとしたら、新太が僕の頬にキスをして注意を促した。 「直、魔法陣の上に移動する。背中が痛いかもしれない、我慢してくれ」  僕の身体は、魔法陣を描いたラグの上にそっと置かれた。入れっぱなしで繋がっていた部分が、水音を立てる。  新太が顔を寄せてきて、僕と何度も目を合わせながら、僕の額、頬、唇に、軽いキスを降らせた。僕はまた、新太が欲しくて欲しくて堪らなくなる。熱さで、また肌がしっとりと汗ばんできた。  僕は自分で動きたくて、身じろぎする。新太をもっと感じて、もっと繋がりたい。もっと欲しい。  けれど、新太は僕の肩を掴んで首を振った。 「あら、たっ」 「しー。今日は、大人しくしてくれ」 「でもっ、もっと、欲しい、もっと、感じたい、のにっ!」  新太は僕の髪を両手でかき分け、そっと僕の頭を包み込んだ。 「いつもとは少し違う方法で、俺の想いを感じてくれ。で、全部、直のものにしてくれ。希望通りにしなくてごめんな。でも」  優しく囁くような声が一転して、少し怒気を孕んだような低い声に変わった。 「問題をひとりで抱え込んで俺に黙ってる、罰かもしれないぞ」  僕はぞくりとして、鳥肌が立つ。  悲しそうに歪められた新太の顔が、不意に遠くなった。    新太は僕の両方の太股を抱え、ゆっくり抜き差しを始めた。新太のものが、僕の中の良いところを的確に擦る。 「ああっ、はぁ、あ、あ、んっ」  僕は快感の波に押し出され、流され、翻弄される。  大きな波が来た瞬間に、新太が吐精する動きが加わり、僕の身体の切なさは最高潮に達した。 「はあああああ、んっ! あああああああああ!」 「うっ、んん!」  僕も新太も、ぶるぶると震えた。新太は僕の太股にしがみつき、更に自分を中に押し込む。 「んああっ!」  押し込まれる熱さと動きに、また達してしまう。 「あ、らたっ! はあっ、もう、お腹の中、んっ……熱くて、煮え、滾ってる、みたい!  んあっ、お腹、からっ、全部、どろどろに溶け、そうっ」  甘い痺れが後を引いて、囚われる。また、身体の底から切なさが沸き上がる。  新太は深く吐き、吸って、息を整えてから、僕に答えた。 「溶けちまえよ、直。溶けて、俺とひとつになれ。そうすれば」  新太が、僕のお腹からずるりと、糸を引きながら自分のものを取り出した。 「ずっと、そばにいられる。直を、守れる」 「あっ」  少し、穴から液体が漏れた。お尻の割れ目を伝い、背中まで垂れそうになるそれを、新太は屈んで、舌で舐め取る。舌は窄まりまで到達した。くすぐったくて、穴が勝手にきゅ、と、締まる。  新太は僕の唇に唇を重ね、口に含んだ粘液を僕の喉に流し込んだ。僕は与えられたしょっぱくて苦いキスを、飲み下す。 「いまの俺には、これだけしかできない……残さず全部、お前のものにしてくれ、直」  新太は僕のお腹と、ラグの上に手を置いた。魔法陣が黄金色に輝き始める。 『直を守る女神、男神  俺に力を分けてくれ』  いつもとは趣が異なる始まり。きっと僕の真似ではなく、新太が自分の想いで詠う詠いだ。 『かつて  わかたれたもの  ふたつのうちひとつ  俺の魂の片割れを  直を守る力を、俺に分けてくれ  俺を甘い香りで誘い  喘ぎ、声で高揚させ  喉に蜜を注ぎ、  美しい肢体を晒し  その身で俺を包んで蕩かす  俺を虜にする、俺だけの女神  俺は囚われ、喰らわれ、奪われても  晒され、千切られ、四散しても  抵抗などしない、後悔もない  俺に差し出せるものは全部、喜んで捧げよう  だから  どうか、どうかこの詠いで  俺の片割れの五体を満たし  その全てを、俺の手で守らせてくれ  俺など欠片も残らなくて良い、喜んで捧げよう  だから  どうか、どうかこの祈りで  俺の女神を満たし  その全てを、俺の存在をかけて守らせてくれ  どうか』  光が収束していく。僕は新太に、圧し潰されそうなくらいの力で抱き締められた。 「どうか、守らせてくれ」  僕の右肩の方にある新太の顔は見えない。ただ、新太が小刻みに震えているのだけは感じられた。 「……新太、新太。それだと僕じゃなくて、新太が溶けて、消えちゃうよ?」  胸がぎゅっとなって、苦しい。仰向けになっているせいで、溢れ出た涙が目の横を伝い、耳まで流れる。  耳元で、ぱたたたっ、と水滴の落ちる音がした。

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