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第3話 銀狐、紫君に会う 其の二

   城お抱えの術師であり、その『力』は折り紙付きだ  晧は彼のことを紫君(しくん)と呼んでいる。  本来の名前もあるらしいが、晧は呼んではいけないと彼に言われたのだ。過去に何やら色々とあったらしいのだが晧自身は全く覚えていないので、特に気にもしてないし、特に聞きたいと思ったこともない。そのことで紫君は、昔から良くしてくれているのだが、有難いとも思うし申し訳ないとも思う。   だが今回はとても有難かった。  晧は挨拶もそこそこに、紫君に勢いよく頭を下げて、願い出る。    ──俺によく似た、精巧な式を作ってくれないか、と。    遊学中に逃げるにしても、周りの者に心配を掛けるのには忍びない。それにここまで付いて来てくれたお付きの者達に、自分がいなくなったことで罰を受けるかもしれない。せめて遊学の間だけでも誤魔化せる式が欲しい。  紫君が理由を聞いてきたが、彼には色々と隠し通せる気がしないので、晧は正直に話した。番に真竜のいる彼なら、もしかしたら気持ちを分かって貰えるかもしれない。  紫君は、きょとんとした表情を浮かべていた、が。   「あ──……」    どこか気まずそうな顔をして、晧から視線を逸らした。   (は!? 何!?) 「まぁ……初めは痛いけど何とかなるよ」    苦笑しながら紫君は言う。   (──痛い!? 痛いって何!? ってことは、やっぱり)    閨の真竜の真竜は、剛竜なのだ。  持っているものは凶悪なのだ。  そして多分きっと絶対、切れるんだ。   「ひ、ひえぇぇ……──!」    灰黒の綺麗な尾を無意識の内に股の間にくるりと収めて晧は、へにょっとしていた灰黒の耳を覆うように頭を抱え込んで叫んだ。  想像だけだったものが、実体験の話を聞いて現実を帯びた感じだった。   「いやでも彼ら基本優しいし、彼らの持つ気が色々と和らげてくれ……ちょっと、聞いて晧? こーう?」         

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