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第4話 銀狐、紫君に会う 其の三
そうこうしている内に、とても精巧な式が完成した。一見すると操り人形には思えないほど出来栄えで、ちゃんと体温もあれば、受け答えも出来る。作る際の媒体として晧 の髪を使ったから、前後の記憶もちゃんと持っている。
何てすごいんだろう。本当にどうやって作っているんだろう。
晧のへにょっていた灰黒の耳が好奇心でぴんと立ち、尾をぶんぶんと音を立てて振る。
式は紫君 の『力』が続く限り半永久的に動くらしいが、例外があった。
真竜の加護の働く銀狐の里に入った時点で、式は晧の姿を保てなくなり元の札に戻ってしまうらしい。銀狐一族が持つ加護の方が『力』が上だからというのが理由だった。また同様の理由で、紫君よりも強い『力』を持つ者が式に触れても駄目らしい。
他の真竜の『力』を借りればもっと長持ち出来るけど、そこまでのものはいらないでしょうと紫君は言う。
見透かされているようで何とも言えない気持ちになったが、実際はその通りだった。
自分は時期銀狐の長だ。
今はまだ長が現役でそれはそれは元気だが、いずれは交代の時期が来る。あの気分屋の長のことだ。自分が子を成したら交代するとか言いそうだ。
(……子を成すとか、自分で言ってるし!)
心の中で晧はげんなりとした気持ちになった。気持ちに比例して灰黒の耳が再びへにょっとなる。
『力』が全ての魔妖と真竜の世界は、『力』の強い者に隷属する本能がある。屈服させられると屈辱も感じるが、それ以上に身体の奥にある本能が『力』の強い者に従えることに悦びを感じるのだ。
あの冷たい焔を持った灰銀の目を思い出す。
一目見て分かった。
あれが自分を屈服させ、食らい尽くす雄なのだと。
自分の胎内 を蹂躙する雄なのだと。
ぞくりとした粟立つものが、背中を駆け上がってきて、晧はふるりと身を震わせた。
恐怖なのかそれとも別の感情なのか、よく分からないものが心の中を占める。
晧はその『よく分からないもの』から逃げたいと思った。
だが逃げて遠いところから、これが何なのか見つめてみたいとも思い始めていた。
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