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第8話 銀狐、狙われる 其の二

 石畳の街道を(こう)はひたすら駆けた。  だんだんと店の数は少なくなり、建物自体も少なくなっていく。歩く人の影すらない。果たしてこの先に本当に宿などあるのか。そう思っていると、遠い視線の先に建物の集まりがあった。すぐ近くにはもう愚者の森の木々が見えている。  本当に街外れなんだなと晧は思った。  確かに主な街の店通りから離れている為、この宿なら空いているかもしれない。  晧は走る速度を上げた。  日がもうすぐ沈む。沈んでしまえば宿が閉まってしまう。  決して夜や野宿が怖いわけではない。だが旅の初日で紫君(しくん)との約束を破ってしまうのは憚れる。  ふと。  何か違和感がして銀狐は立ち止まった。  灰黒の耳をぴんと立てて、辺りを伺う。  先程走っていた時に、自分以外の足音が聞こえた気がしたのだ。そして僅かに感じていた気配が、不自然なほどにぷつりと途絶えた。   「──出て来いよ。そこにいることは分かってるんだ!」    晧の声に、ぶわりと殺気立つ気配がある。  その数は、三。  晧を取り囲むようにして現れたのは、黒衣を身に纏った男達だった。  彼らは武器らしいものを持っていない。だが明らかに自分に向かって殺気を飛ばしている。   (……暗器使いかそれとも術者か)    どちらも厄介だったが暗器使いならば、自分の耳が役に立つ。武器を取り出す際の僅かな物音と気配の揺れで行動が読める。だが術者ならかなりの苦戦を強いられることになる。魔妖に対抗できる『力』を持つのが、真竜の『力』を借りた術者だ。手練れになると『力ある言の葉』だけで魔妖の動きを止め、従わせることが出来るのだという。  男のひとりが二本の指を立てる。剣を表す所作に晧は、瞬時にこの男が術者であると理解し、息を詰めた。   (──あれは……!)    術者の男が填めている手甲に施されている紋様に、晧は心当たりがあった。   (魔妖狩りの連中だ……!)    文字通り魔妖を狩り、毛皮や角や牙、希少な翼などを売り捌く者達のことだ。また人形の執れる幼い魔妖や、見目麗しい魔妖などを攫って、金持ちの好事家達に売るようなこともしているという。   「……攫って来いとの命令だ。傷を付けるなよ」  「是」  

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