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第9話 銀狐、狙われる 其の三※

 男の言葉に、冷たいものが背筋を流れ落ちていくかのような、気味の悪さを感じた。その言葉を額面通りに受け取るとするならば、傷の付いてない自分の、この身体が必要だということだ。それは物好きな好事家に売られることを意味している。  それがどんな意味合いなのか分からないほど、(こう)は子供ではなかった。街道かもしくはこの街入ってからか、それとも城下街にいた頃か、自分は彼らに目を付けられていたのだろう。    先手必勝だと晧は思った。  相手が術者ならば迷っている暇などない。  手の所作と『力ある言葉』による術の発動には、実は大きな隙がある。  そこを狙って晧は相手の懐に飛び込み、回し蹴りを相手の頭に喰らわせた。相手は声を上げる余裕もなく、身体ごと吹き飛んで倒れる。間を空けずに晧はすぐ隣にいた、二人目の術者の脇腹を渾身の力を込めて蹴る。格好の悪い呻き声を上げて、術者が地に沈んだ。  三人目、と地面を踏み込んだところで、空気を重く切り裂くような音が耳元で鳴り、晧は本能の感じるままに身を軽く翻して避ける。  避けたつもりだった。   「──っ!」    玉鎖がまるで生き物のように畝って動いて、晧の左手首を絡め取る。そのまま身体ごと地面を滑るようにして引き寄せられたところで、突如、晧の顔に何やら液体のようなものが掛けられた。   「うわっ! なっ……!」    目に入らなかったことが幸いか、それとも不幸か。  顔から香る、濃厚で甘い芳香に身体がだんだんと痺れたように動けなくなる。そしてやたら身体が熱くて堪らなくなった。   「──ったく手間を掛けさせやがって」    玉鎖の持ち主が、晧の右手首にも鎖を絡ませて身体を持ち上げる。鎖が自分の体重によって手首に食い込んだ。 「……っ!」    痛いはずのそれが妙な快楽に擦り変わる。思わず上げてしまいそうな声を晧は、奥歯をぐっと噛み締めて堪えた。  だが。   「──っ、あ、んっ……!」    男の武骨な手が、晧の灰黒の尻尾の付け根を卑猥な手付きで揉み込む。思わず上がってしまった自分のものとは思えない甘い声に、晧は戸惑った。   

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