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第11話 銀狐、狙われる 其の五※

 冷えた心の目覚めるがままに、(こう)は鉛のような足を動かした。酷く億劫なほどに動かない足で、男の脇腹に蹴りを入れようとする。  だがそれは無残にも男によって、易々と足を掴まれてしまう。   「──おっと! 無抵抗なお(ひい)さんより、抵抗するお姫さんの方が唆るってもんよ。だが俺はな、どちらかっつーと従順なのが好みでなぁ」    男は晧の掴んだ足を自分の肩の高さまで持ち上げると、足首から脹ら脛にかけて、これでもかと舐め上げた。その悍ましさと熱い滑りとした舌の感触に、晧の心の中を嫌悪と官能が鬩ぎ合う。  男は晧の足を肩に掛け、唾液塗れにしながら器用にも、胸元から小さな小瓶を取り出した。口で栓を抜き、これ見よがしに晧の目の前に突き付ける。  ふわりと香る甘い芳香に、その小瓶が先程掛けられた媚薬だと思い知った。   「……や、めろ……っ……!」    たった一度の量で、これほどまでに身体が熱くなり、痺れたように動かなくなったのだ。そして目の前のこの男に快楽を求めてしまいそうになった。  それをもう一度掛けられたら、どうなるのか。  くつくつと無慈悲に、だが楽しそうに笑った男は小瓶を傾ける。  晧の唇に。  そしてすっかり勃ち上がってしまった、若茎に。   「──っ、あ、あああっっ……ぁ──……!」    痺れて動かないはずの身体が、びくびくと震える。  幾度も突き出す卑猥な腰の動きを繰り返しながら、晧は男の前で果てた。   「……ぁ……ぁ……」    快楽で頭の中が真っ白に染まって、何も考えられなくなる。一度果てても痛いほどに昂る自身の若茎を、無意識の内に男の屹立に擦り付けて縋った。   「そうだそれでいい。今から優しく仕込んでやるからよ」    男は晧に攻撃されて、未だに地に沈んでいる他の仲間に起きろと怒鳴る。   「始めの仕込みは終わった。これから二晩かけてこいつを仕上げるぞ」    そう言って晧の手首を繋いでいる鎖を、ぐいっと持ち上げた刹那。    空気が唸った。    次に聞こえてきたのは男の絶叫だ。錆びた鉄のような臭いが辺りに充満し、ぼとぼとと地に何か水滴のようなものが落ちる音が聞こえる。  持ち上げられていた晧の身体が、地面に向かって滑り落ちそうになったその須臾。  抱き留められる、力強い腕。  失せろ、という冷淡な声に、男共が悲鳴を上げて立ち去っていく足音が聞こえる。  晧は朦朧とする意識の中、助けてくれた人の顔を見た。  全く知らない男の顔だった。  もしかすると新手の魔妖狩りか。  そんなことを思うのに、身体は熱を増して、痺れてもう動くことも叶わない。   「……夫ですか? すぐに手当てを……」    彼が何を言っているのか、もうよく聞こえない。  だがどこかで嗅いだことのあるような、とても懐かしい匂いが彼からする。それに酷く安心してしまって、晧は自分を横抱きしてどこかへ運ぼうとする彼に、ことりと身を預けたのだ。            

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