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第35話 銀狐、約束する 其の一

「な……っ」    顔に朱を走らせた(こう)が何か言いたげに白霆(はくてい)を見たが、清々しいまでの笑みと優しい眼差しに、途端に何も言えなくなる。  さぁ食べましょうと、白霆(はくてい)が手を合わせた。  卓子(つくえ)の上には米粥を始め、焼き魚や根菜の煮付けた物、香の物が並んでいた。  晧も手を合わせてから匙で米粥を口に運ぶ。昨日の昼から何も食べていない上に、昨晩は発熱もしていたこともあって、朝から食べる温かい粥がまるで身体に染み込むように美味しかった。  思わず美味いと呟いた晧に、白霆(はくてい)がゆっくり食べて下さいね、一気に食べると苦しくなりますよと気遣いの声を掛ける。  焼き魚の塩加減と米粥の相性が堪らなく美味しくて、晧の椀の中はすぐに空っぽになった。  おかわりされますか、と白霆(はくてい)が晧の椀を受け取る仕草を見せる。頼む、と椀を渡せば彼はあらかじめ用意されていた土鍋から、どこか優雅な手付きで大匙で粥を掬い、晧に渡した。  今度は根菜の煮付けた物と共に粥を食べるが、これもまた美味しい。  ふと晧は思い出した。   「そういえば紫君(しくん)が言ってたな。山に入る手前で、とても美味い川魚の煮付けを出してくれる宿があるって」 「川魚の煮付け、いいですね。山の手前と言いますと麗川(れいせん)のほとりですね。あの辺りは確かに川魚が豊富な地です。山越えの前は是非そこに泊まって食べましょうか」 「うん……あと、山の中腹辺りにある宿の温泉もお勧めされたな」 「麗東(れいとう)は温泉地で有名ですが、麗南(れいなん)にもあるんですね。紫君は川魚と湯殿好きですものね。これで山越えの前と中腹の宿は決まりですね」 「ああ」 「温泉、一緒に入りましょうね」 「は──!」  

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