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第43話 銀狐、思い悩む 其の四

「……っ」    白霆(はくてい)の何気ない言葉に、灰銀黒の耳がぴんと立ち、嫌でも顔が熱くなる。そんな(こう)の顔を見て、良かったと、優しい口調で白霆(はくてい)が言った。   「顔色、良くなりましたね。本当に良かった」    彼の手が、晧の様子を見るように頬に触れる。その熱さが心地良い。閉じた想いの蓋が溢れそうになるのを晧は何とか堪える。  ふと晧は思った。   「……昨日、別室にしたのって……」   「……ええ。同室にしてしまったら、貴方が私を気にして休めないと思いましたので」    もしかして寂しかったですか。  そんな風に聞かれて、顔に更に朱が走る。彼の言葉を全て信じたわけではないが、もしも本当なら白霆(はくてい)は自分のことを考えてくれていたのだ。そう思うだけで温かいものが心内を満たしていく。  それに。   (その言い方だと、白霆(はくてい)は)    本当は同室にしたかったのだと、言っているかの様で。  気付けば頬から離れていく白霆(はくてい)の袖口を、晧は無意識の内に掴んでいた。  そうして無言のまま、こくりと頷く。  途端に息を詰めた白霆(はくてい)が、目を見張るような動作をした。その驚きの表情の意味は何なのか。見ていられなくなった晧は俯く。  恥ずかしくて堪らない。  こんな自分はいつもの自分ではない。  だが昨夜のような、目の前で心の扉を閉められるかのような思いはもう御免だった。   「──……同室が、いい。白霆(はくてい)」 「……こ、う……」    いつになく辿々しい口調の白霆(はくてい)が気になって、晧は様子を伺うように彼を見上げた。  そこで見たものは、片手で口を覆いながら顔を紅潮させた彼の姿だ。   「……っ」    どこか飄々とした印象を持っていた白霆(はくてい)の意外な姿に、釣られて晧の顔が更に赤くなる。  お互いに何も言えないまま、ただただ見つめ合う。  何かを言わなければと思うのに、言葉にならない。   「あ……」    それでも互いの間に流れる空気を何とかしたくて、晧が何か言いかけたその時だった。    ──……定です! 今朝麗海から届いた新鮮なお魚、お刺身でも焼き魚でも美味しいですよ! 豪華特別朝餉! 限定十食! はいあとニ食ですー!    食事処の方向から聞こえる元気な声は、昨日の魔妖の少女のものだろうか。  だがそれよりも。   「──ニ食! ニ食だって! 白霆(はくてい)! 豪華特別朝餉!」 「それはいけません。急ぎましょう、晧」    いつの間にか普段通りに話すことが出来て、晧はほっとする。  二人は食事処に向かって走り出したのだ。                       

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