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第44話 銀狐、同室になる 其の一

 食事処に辿り着いた時には残り一食となっていた豪華特別朝餉だが、何とか頼むことが出来た。それに加えて通常の朝餉も頼んでから席につく。  一食しか残っていないと分かった時、(こう)は頼むのをためらった。だが白霆(はくてい)が言ったのだ。では普通の朝餉も頼んで、豪華特別朝餉のおかずを二人で半分ずつにしましょうと。  白霆(はくてい)の提案に乗って、晧は二人で分け合いながら、魚づくしの美味しい豪華朝餉を堪能する。  銀狐は意外にも魚好きだ。何でも食べるが特に魚がよく食卓に上がる。それでも里ではあまり食べることのなかった、魚の刺身がとても美味しくて晧の顔には自然と笑みが零れた。そんな晧を見て白霆(はくてい)が、自分の分の刺身を渡そうとする。晧は断った。それなら一緒に食べて美味しさを分かち合ってほしいと言った。  白霆(はくてい)の口に刺身が運ばれるのを、どこかうずうずしながら見ていた。やがて彼が美味しいと言えば晧は満足そうに、にこりと笑ったのだ。    宿を出た晧と白霆(はくてい)は、先人達が拓き踏みしめた森の道を歩いていた。日暮れまでに『愚者の森』の切れ目まで辿り着かないといえない。  時折、森の茂みの音に白霆(はくてい)が立ち止まって白蛇を警戒していたが、旅は特に何事も起こらず順調に進んだ。  やがて陽が落ち始めた頃に二人は森を抜け、大きな河に差し掛かった。  魚が豊富にいると云われている、麗河だ。  今まさに夕陽が河の水平線に触れようとしていた。  橙色に染まる空と河の境目があまりにも綺麗で、晧はしばらく見つめる。  ふと白霆(はくてい)を見ると彼もまたこの景色に魅了されたのか、感嘆の息をつきながら、河の中へ溶け込んでいく夕陽を眺めていた。  ふと彼と視線が合う。  銀灰の瞳が夕陽の橙色に染まり、不思議な色合いになっていた。また白霆の薄青色の髪もまた、微風が吹く度に綺麗綺麗と輝いている。そのあまりの綺麗さに、ぼぉうとしながら白霆(はくてい)を見惚れていた晧は気付かなかった。  彼との距離が縮まったことに。   額に落とされる接吻(くちづけ)を、晧は抵抗せず受け入れた。  優しい接吻は少しずつ下へと降り、やがてほんの少しだけ、軽く触れるだけの接吻(くちづけ)が唇に落ちて離れる。   「──……ちょ、はくて……!」 「隙あり、ですよ。晧」    面白そうにくすくすと笑う白霆《はくてい》に、行きましょうと軽く肩を叩かれた。  先を歩き出した彼には気付かれていないだろう。  無意識の内に自身の唇に触れる。先程の真綿のように柔らかい接吻(くちづけ)を思い出してしまって、晧は途端に慌てた。  ぼぉうとする顔の熱を取りたくて、両頬を手の平で叩く。今の接吻(くちづけ)を忘れなくては、捕らわれてしまう。   (──そうだ、川魚の煮付けだ!)    

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