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第47話 銀狐、夢を見る 其の二

 きゅうきゅうと、幼竜の鳴き声が聞こえる。  その必死な鳴き声に(こう)はゆっくりと目を開けた。  目の前で小さな白い竜が大粒の涙を流しながら、まるで晧に縋るように泣いているのだ。  どうしてそんなに悲しい声で鳴いてるの?  そんなに泣いたら宝石のように綺麗な、翠色のおめめが溶けちゃうよ。  だから泣くでないよ、白竜(ちび)。  そう言いながら晧は白竜(ちび)の頭を撫でようとした。  だが。  どうしたことだろう。  仰向けで寝転がっていることは分かる。  だがどうしても身体を動かすことが出来ない。白竜(ちび)に向かって手を伸ばすことも、起き上がって泣いてる愛しい小竜を抱き締めることも出来ないのだ。  そう気付いた刹那。  全身を襲い来る鋭い痛みに、晧は声を我慢することも出来ずに、呻いて叫んだ。    いたいいたいいたいいたい。  いたいいたいいたいいたい。    頭の中がそんな言葉でいっぱいになる。  きゅうきゅうと悲しそうに鳴く白竜(ちび)の鳴き声も、痛みで聞こえなくなる。  ぞっとするような寒さが這い上がってきて、晧はようやく自分の身に何が起きたのか思い出した。   (──ああ、落ちたのか)    きっとあの木になっている果実を取ろうとして。  何を思ったのか。きゅう、と白竜(ちび)が大きく鳴いた。  するとどうだろう。白い霧にも似たとても温かいものが、全身を包み込んでいく。あんなに激痛がしていた身体から、徐々に痛みが消えていくのが分かった。 『白い霧』から香るのは、春の野原の草花のような瑞々しくも仄かに甘い……。             ***   (──……今のは何だろう?)    そんなことを思いながら晧は、むくりと寝台から起き上がった。  眠りが全く足りていない所為か、頭がとてもぼぉうとする。まだ意識のはっきりしない中、晧は先程見た夢のことを思った。  自分は果たして白竜(ちび)の前で、木から落ちたことなどあっただろうか。全く覚えがないというのに、やけに現実感のある夢だった。  あんな痛い思いなど、したことがないというのに。  不意に晧は、すんと鼻を鳴らした。  懐かしい香りがする。  先程も自分はこの香りに包まれて、温かさを感じた。自分を痛みから守ってくれた優しいものだ。  晧は眠い目を擦りながらも、寝台から降りた。  そして香りに誘われるかのように、もうひとつの寝台に乗り上げる。    この香りに包まれて眠りたい。  この温かさが欲しい。    晧は狐の声で縋るように、くゎいくゎいと鳴いた。  すると上掛けが開いて中へと迎え入れられる。喉を鳴らし、甘えた声でくぅくぅと鳴けば、分かっていると言わんばかりに温かい腕に包まれた。  懐かしい香りと力強い腕に、ほぉうと感嘆の息をついて、晧は再び眠りについたのだ。

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