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第49話 銀狐、組み敷かれる 其の二
『何か』って何だ……!?
そんなことを思っていると耳輪を柔く食まれて、晧 は竦み上がった。じわりと甘く疼くものが背筋を駆け上がってきて、堪らず身を捩る。
「……はくて……!」
幾つもの接吻 が耳輪にそして耳裏に落とされて、軽く吸われる音が脳にまで響く気がした。やがて滑りとした熱い舌が耳裏を舐め上げる。
「……ぁ」
晧は咄嗟に縋るように白霆 の肩を掴んだ。
途端にふわりと彼から、春の野原の草花のような瑞々しくも甘い匂いがする。
(……この、かおり……たしか……)
本能を刺激するこの香りを、自分は確かに知っていた。
だが答えに辿り着く前に、白霆 の悪戯な手が下衣の合わせ目から入り込み、肌に触れる。その手の熱さに、まあるく円を描くように動く指の動きに、思考がままならない。
降りてきた唇が、熱い息を吐きながら今度は首筋を食む。同時に乳嘴 を柔く引っ掻かれて、晧の身体が若魚のようにぴくんと跳ねた。
「……っぁ……!」
これ以上は駄目だ。
身体に熱が灯ってしまう。
白霆に流されてしまう。
それは絶対にあってはならないことなのに。
晧が白霆 の身体を押し返そうとすると、彼はくすくすと面白そうに笑いながら、あっさりと晧の上から退いた。そして優しい手付きで晧の身を起こす。
「これ以上はお互い、洒落にならなくなりそうですし。止めておきます」
身体に感じていた重みが消えて、晧はほっとしたのと同時に、酷く寂しい気分に襲われた。
「……だったら最初から……」
「ええ。何もしないつもりだったのですが、貴方が私の腕の中で気持ち良く眠ってらして、しかも私の手を四半刻ほど甘く噛み噛みしてらしたので、つい」
「……っ」
「僥倖でしたが……ちょっとした仕返しです」
「お、起こせばよかっただろう……!」
「そうですねぇ。ですがあまりにも可愛らしかったので、つい」
「か、かわっ……!」
「はい!」
にっこりと幸せと言わんばかりに笑う白霆 に、晧は何も言えなくなる。元はと言えば自分が寝惚けて、彼の寝台に潜り込んだのが悪いのだ。
(しかも四半刻も……手を噛んでた)
甘噛みは銀狐一族にとって、一番分かりやすいの愛情表現のひとつだ。それを無意識下とはいえ、白霆 に行っていたことが信じられない。
「晧」
呼ばれて自分の思考から我に返れば、目の前に白霆 の顔がある。
掠めるようにして晧の唇を奪った白霆 が、寝台から降りてうんと背伸びをした。
そして何事もなかったかのように、朝餉食べにいきましょうと彼が言う。憎らしくもどこか救われたような気分になりながらも、晧は応えを返したのだ。
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