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第51話 銀狐、とある人と出会う 其の二

 白霆(はくてい)から香るものが、昔どこかで嗅いだことのあるような懐かしい香りなのだ。   「──なぁ? 白霆(はくてい)。お前何か香りのするもの、身体に付けてたりするのか?」    晧の唐突な質問に、白霆(はくてい)がきょとんとした表情をする。   「いえ、職業柄そういった類のものは付けておりませんが……どうしました?」 「え、そうなのか? お前から時々、懐かしい何かいい匂いがするんだが、どこで嗅いだのか覚えてなくてな。だから何の匂いか聞こうと……──白霆(はくてい)?」    白霆(はくてい)が息を呑むのが分かった。  まさか、と小さく呟いた彼の声を狐の聴力が捉える。  途端に変わった顔色に、晧の方が驚愕した。香りのことを尋ねただけで、どうしてこんなに白霆(はくてい)が動揺するのか分からない。何か怪しい薬や薫香でも使っているのかと思ったが、そういった類は独特の気配や匂いがする為、鼻の利く晧にはすぐに分かるのだ。  可能性はただひとつ。この香りは白霆(はくてい)が本来持っている香りだということだ。   「──晧、私は……」 「ん?」    白霆(はくてい)が神妙な顔付きでじっと晧を見つめる。  首を傾げながらも、晧が白霆(はくてい)の話を聞こうとした、その時だった。  ぴん、と晧の灰銀黒の耳が真っ直ぐに立つ。何か聞こえた気がして左右前後に耳を動かす。まるで遠くのものを、より聞こうとしているかのように。   「晧……」 「しっ! 静かに。いま……確かに何か聞こえた」    晧は乾飯と干肉を布鞄にしまうと岩から立ち上がった。  灰銀黒の狐耳に手を宛い、物音のした方向に向かって歩き出す。  晧と白霆(はくてい)は登山道から少し離れたところで休憩していた。音が聞こえたのは、更に奥の道の方だ。  実は登山道の他にも、いくつか道が存在している。そのほとんどがこの山に住む者達が、隣の集落と行き来をしたり、枝を広い集めたり、木を切ったり、必要最低限の獣を狩ったりと、生活の為に毎日歩いて踏みしめた道なき道だ。頻繁に山に入っている者以外は、迷うことを怖れてほとんど使われることはない。  この道もその一部なのだろう。  木漏れ日が差し込んで、背の長い草を倒して出来た道が綺羅綺羅と輝いている。   (……ああ、この先だ)    物音は確かに道の奥から聞こえてくる。   「白霆(はくてい)……声だ! 人の苦しそうな声が聞こえる!」   

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