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第70話 銀狐、向き合う 其の三

「……っ、はぁ……んっ」    熱い吐息が(こう)の口の端から洩れる。  それすらも惜しいのだと言わんばかりに、吐息ごと食らうように濡れた音を立てて、再び唇が重なった。  口腔に入ってきた長い竜の舌が、晧の舌を艶めかしく絡め取る。その滑りとした感触が気持ち良くて堪らない。やがて舌の根をきゅうと引っ張られて、そのつんとした痛みすらも悦びを感じて、晧はくぐもった声を上げた。  こんな接吻(くちづけ)は初めてだった。  生々しくて、くちゅりと水音を立てながら、口の中を掻き回されるような接吻(くちづけ)など、初めての経験だった。   「……っ、はぁ……」    再びお互いに吐息を洩らしながら、唇が離れる。  目を開ければ白蜜のように溶けた、白竜の灰銀の目とぶつかった。   「晧……」    優しい瞳、優しい口調に流されそうになる。   「──違っ、待て! 白竜(ちび)」    白竜の薄い唇に口付けそうになって晧は、はっと我に返って起き上がった。   「……はい」    白竜が殊勝に応えを返すと、晧に続いて上体を上げて起き上がる。その様子を見た晧は先程まで苦しんでいた白竜に対して、心が昂るがままに接吻(くちづけ)をしていたことに、居たたまれなさを感じていた。   「悪い……その……身体は大丈夫か?」 「まだ少しだけぼぉうとしますが、息苦しさと胸の痛みは消えました」    白竜の言葉に晧は、大きく安堵の息をついた。   「ああ、良かった……! 急に胸を掴んで苦しみ出して、本当どうなることかって思った。本当に良かった……!」 「晧……」    消え入りそうな声で白竜が晧の名前を呼ぶ。  そうして晧に対し、深々と頭を下げた。   「申し訳ありません、晧。私は……貴方を騙していました」 「……術が解けたって自覚あるのか?」 「はい。身体を覆っていた膜のようなものが消えて、何より胸の苦しさがなくなりましたので」 「……」    晧は頭を下げ続けている白竜を複雑な思いで見つめる。確かに白竜は自分を騙していた。そのことに対して心の中で苛立つ気持ちと、色んなことを見られた気恥ずかしい気持ちが鬩ぎ合う。だがそれ以上に晧は気になった。  麗城にいるはずの白竜が自分を追い掛けてきた理由を、晧は何となく察している。きっと何らかの原因で、いま麗城に遊学に来ている『晧』が偽物だと気付いたのだろう。もしかしたら紫君に何か聞いたのかもしれない。  では何故自分を追い掛けるのに、紫君に頼んでまでして姿や気配までも変えたのか。   

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