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第72話 銀狐、向き合う 其の五

「……あ……う……」    (こう)は居たたまれなくなって、白竜から視線を外した。そして彼の手の甲に添えた、自分の手を見つめる。  確かに白竜から逃げたが、まさか言えないだろう。  ずっと可愛いと思っていた年下の竜が、見目のいい雄の人形(ひとがた)になって現れたことに戸惑っただなんて。目が合った瞬間に自分は『食われる側』なのだと、本能的に理解したことにも戸惑っただなんて。  しかも白竜は自分よりも遥かに体格がいい。アレの大きさはきっと体格に比例する。近い将来に受け入れることになるだろう、アレの大きさに怯えていただなんて。   (……言えるわけがない)    とんでもない罪悪感に、晧は眩暈がしそうになる。  だがそんな晧の思いなど全く知らない白竜の、もう片方の手がぎゅっと、添えた晧の手に被さった。   「……気が気ではなかったんです。幼竜の時からずっと大好きで大好きで仕方なかった貴方が、私の知らないところへ行ってしまうのではないかと。いずれちゃんと戻ってくるよと紫君(しくん)はおっしゃっていましたが、耐えられなかった。だから私は紫君に相談したのです。晧を追い掛けたいと。 「……っ」 「ですが元の姿のままでは、貴方はまた怯えて戸惑って逃げてしまうかもしれない。貴方のあの目を、もう一度向けられるのは耐えられなかった。……紫君に協力して貰って、彼の術力と私の神気を織り交ぜて、私は姿を変えました。ですが胸の紋様が残ってしまっていたので、消すための術をさらにかけて」 「……」     晧は何も言えず、ただ白竜の手を見ていた。  心の中で押し潰されそうな罪悪感と、愛しいと思う気持ちのままに、彼の手の甲を軽くきゅっと握る。すると被さった白竜のもう片方の手が応えて、晧の手背を力強く握るのだ。   「術の二重掛けは不安定でした。ですので師匠に術を長期間固定し、持続できる薬を処方して貰えるよう頼みました。晧もご存知の通り、師匠に薬を依頼するには代償が必要です。私は師匠と『晧が私に気付くまでは、自分から正体を明かさない』という言の葉の制約を交わしました。師匠からは気付かなかったらどうするんだ、本気で身体の方が保たなくなるぞと警告されましたが……大丈夫だと思っていました」 「……」 

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