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第75話 銀狐、向き合う 其の八

「私は貴方が思う私とはかけ離れてしまったし、幼竜の時も臆病で貴方の後ろを付いて行くことしか出来なかった。だからその方に会うために、私から逃げたのではないかって思っ……」 「──違う! そうじゃねぇ! 第一、かけ離れてねぇよ! それにお前は臆病じゃない。臆病だったらあの時俺が熱を出したことで、薬の知識が欲しいって言って、麒澄(きすみ)に弟子入り志願なんて出来ねぇよ」    ここまで言って(こう)は、ふと気付く。   「……ってもしかして『白霆(はくてい)』の姿で俺を口説くって言ったのは……!」 「──その方よりも私の方が『いい男』だと思って頂きたくて」    どこかしゅんとした様子の白竜に、晧は悩ましさと呆れの混ざったような深いため息をついた。まさかそういう方向で勘違いされるとは、夢にも思わなかったのだ。   「ああ……違う、違うんだ。確かにお前から逃げたのは事実だけど、ちょっと考える時間が欲しくて。……紫君(しくん)に教えて貰った宿に行くついでに、数度しか越えたことのない山越えの経験も積みたかったんだ。けど普通はそんな軽い理由で山越えなんてしないだろうから、いもしない『南の国にいる友人に会いにいく』っていう理由を作ったんだ」 「……いない、のですか……? 南の国にいる友人が……?」 「いない」    「では何故私から……?」 「──っ」    途端に晧が言葉を詰まらせた。  だが黙ることによって妙な勘違いが起きてしまって、拗れてしまうのなら素直に話してしまった方がいい。  そう思うのだが。   「理由があるのなら知りたいです……晧」 「……」    白竜の言葉に後押しされて、晧はそれはそれは腹の底から這い出るかのような、深いため息をついた。  思うことはたくさんある。  もうそれを全部この男に、ぶつけてしまってもいいのかもしれない。  晧は白竜の眠衣の合わせ目を両手でぐっと掴むと、白竜を自分の方へと引き寄せる。   「──ずっとずっと、可愛い可愛いって思ってた年下の小さな白竜が、いきなり体格もいい見目もいい、好みの雄竜になって現れたらびっくりするだろうが!」 「えっ……こ、う……?」 「しかも、絶対俺のことを抱くんだって言わんばかりの目で見られて!」 「えっ……」 「お前体格いいから絶対アレもでかいだろうし……怖いし……! だからちゃんと自分の気持ちが落ち着くまで旅に出ようって……」 「……」 「なぁ! お前のお前のアレ……その……『白霆(はくてい)』の時と……その……──って、やっぱいい何でもない、何も聞いてない!」                    

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