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第76話 銀狐、向き合う 其の九

 (こう)が顔を赤らめながら、眠衣(ねむりぎぬ)の合わせ目をぱっと放した。  白竜がそんな晧の姿を見て、きょとんとした表情をしている。そしてようやく言葉が頭の中に入ってきたのか、晧と同じように顔を紅潮させた。 「その言い方ですと……その、私のアレが……怖いから逃げたって聞こえるんですが……?」 「……っっ、ああそうだよっ! 絶対にでかいだろう!」 「さぁ、どうでしょう? ですが……優しくしますので、大丈夫ですよ」 「──五月蝿い! 何が大丈夫なんだよ」 「神気は痛みを和らげますので」 「──……暗に『痛い』んだって言われても、怖いだけだろうが」     「大丈夫です。直に分からなくなります」 「……だから怖いって」 「それに……貴方がこんなに怖がっているのに先程の話、私に抱かれる覚悟を決める為に旅に出たって、私の都合のいいように聞こえますよ、晧」 「違……っ!!」      朱を走らせていた晧の顔が更に赤くなる。  反論しようとした晧は、結局何も言えないまま口籠もった。  白竜の言ったことは、当たらずといえども遠からずだ。  譬え白竜の変化に戸惑い、アレの大きさに怯えて逃げたとしても、気持ちの整理をつけていずれ里に戻ると決めていた。要はそういうことだ。   くすくすと白竜の笑い声が頭上から降ってくる。   「……笑うなっ!」   「すみません、あまりにも愛らしくて……!」 「愛ら……!」 「ええ。まさか私から逃げた理由が、そんな愛らしい理由だったなんて」  再びくすくすと笑う白竜に、晧はいたたまれなくなってそっぽを向いた。  それすらも愛らしいと言わんばかりに、くすりと笑っていた白竜だったが、その笑い声が不自然に止む。  「──それなのに私は嫌われたくない一心で、貴方を追い掛ける為に姿を変えた。……貴方を悩ませてしまったこと、申し訳なく思います」 「……確かに悩んだ。悩んだけどな、お前が姿を変えたのは確かに俺の所為でもあるんだ。でも、聞いて欲しい」    晧は白竜の両肩を掴むと、灰銀の瞳をじっと見据える。   「俺は……昨日今日あったばかりの『白霆(おとこ)』にこれでもかと惹かれたのが、自分でも信じられなかった。離れるんだと決めても、心が引き裂かれるように痛んで……、ずっとお前を裏切ったと思ってた」 「……はい」    白竜が神妙な面持ちで応えを返す。  言い様のない気持ちが溢れてくるのをぶつけるかのように、晧は拳で白竜の肩を幾度か軽く打った。  白竜もきっと自分に言いたいことや、ぶつけたいことなどあるだろう。  お互い様だというのに、止めることが出来ない。   「でも……『白霆(はくてい)』が白竜(おまえ)だったんなら、離れたくないって、傍にいたいって思うはずだよな。良かった、俺は──……ちゃんと初めから、お前のことが好きだった。なぁ? 白竜(ちび)。俺さ……旅の間、お前から離れるのが嫌だった。お前の香りに包まれながら眠りたくて仕方なかった」 「……」 「霽月(さいげつ)の赤ん坊を見てさ、お前との子供が欲しいって思うくらいには……俺はお前のこと好きだった。ちゃんとずっと好きだったぞ、白竜(ちび)

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