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第88話 銀狐、目合う 其の十 ※

   現れた精悍な身体に、痛いほどに胸が高鳴る。逞しい腕に、広い肩から肥沃な稜線を描く厚い胸板。自分とは全く体型が違った。だがその身体には、不可侵な美しさのようなものがある。  (こう)はふと感慨深いものを感じていた。  あんなに小さくて、自分の後ろをきゅうきゅう鳴きながら、ほてほてと歩いてついてきていた白竜(ちび)が、こんなに立派な雄竜になったのだと。  こんな立派な人形を持ったのだと。  婚儀の相談の時、この人形(ひとがた)を見て、ぞくぞくとしたものが背筋を駆け上がっていったのは、自分が白霆の本能上の支配下に置かれることに、恐怖を覚えたからだ。同時にこの男に征服されたいという、全く真逆のことを思ったのも事実だった。白霆の容姿も同じで、冷たい印象で怖いと思ったのと同時に、好みが過ぎて怯えた。  この真逆の感情はどちらも、嘘偽りのない正直な気持ちだ。  白霆にとっては堪ったものではなかっただろう。  だが彼の体格の良さに絶対にアレがでかくて怖いと逃げ出した自分を、この雄竜はこれ以上嫌われたくない一心で、姿を変えてまで自分を追い掛けてきたのだ。   「晧……」    そのどこまでも真っ直ぐに自分を見る、眩しいくらいの一途さに、頭も身体もおかしくなりそうだと晧は思った。  こんなにも自分は白霆(はくてい)に想われている。  では自分はどれほどの想い(もの)を、彼に返せるだろうか。   「あ……はく、て……!」    白霆の雄蕊(ゆうずい)が晧の後蕾から花芯の筋にかけて、ゆっくりと擦り付けられた。後蕾に塗り込められた竜の唾液に、すっかり勃ち上がった花芯から溢れる蜜、そして雄蕊からとろとろと零れる先走りが混ざり、ぬちゃりぬちゃりと何とも言えない甘淫な水音を立てる。  白霆の申告通り『あの白霆』のものよりも、この雄蕊は大きかった。晧のあられもない艶声に散々煽られていたのだろう。先走りの流れる赤黒く膨張した先端、そして茎の表面には物々しくも太い血管が浮き出ている。   (──ひ……!)    言葉にならない吐息だけの悲鳴のようなものが出て、晧は思わず息を呑んだ。自分のものが児戯に思えてしまうほどに、太くて長く反りのきつい雄蕊だった。    「あ……」    逞しい腕に腰を引き寄せられたかと思うと、雄蕊の先端が、ひくつく後蕾に宛がわれる。  その熱さに晧はびくりと身体を震わせた。  いまからこの身体の奥まで、あの雄蕊に暴かれるのだと思うと、恐ろしさとそれ以上の期待で堪らない気持ちになる。  だが、その時はいつまで経っても訪れない。   「……はく、てい……?」    晧は気付いた。  腰に触れている白霆の手が、僅かに震えていることに。  

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