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第89話 銀狐、目合う 其の十一 ※

「……どうした? はくてい」  白霆(はくてい)の欲にの焔にぎらついた灰銀の目が、不安そうに揺らいでいる。  (こう)は驚きを隠せなかった。  先程まであれほど自分を手管で翻弄してたのだ。だから挿入も容赦ないだろうと思っていた。  それだというのに。 「なんで……そんな顔、してるんだ……?」  「……晧」 「どうした?」    晧は少し手を伸ばして白霆の手に触れると、彼の身体がびくと揺れる。晧の名前を呼び、じっと晧を見つめていた白霆がやがて観念したかのように息をついた。   「私は……幼竜の時からずっと貴方に焦がれていました。貴方に守られるだけの存在ではなくて、ずっと貴方の背中に追い付きたかった。隣に、立ちたかった。今度は私が貴方を守りたかった」    (いら)えの代わりに晧が白霆の手の甲を擦る。   「ですが……この目合(まぐあ)いで貴方が本当に、私を怖がって逃げ出してしまうのではないかと思うと、ここから先が恐ろしくて進めないのです」 「……っ」    こんな凶悪なものを宛がっておいて、何を言うのかと晧は思った。呆れ半分な気持ちと自分への想いに、何とも言えない愛しさが心の中に入り混じる。ひたむきな言葉と、不安そうにしながらも欲のぎらつきを隠せない瞳。その矛盾さが可愛くて仕方ないと思うのは、もうすでに自分がこの年下の男に惚れてしまっているからだろう。  だが白霆がこんな風に思ってしまうのも、思わせてしまったのも全て自分の所為だ。   「……白竜(ちび)」 「はい」    晧の呼び掛けに、白霆は真摯に応えを返す。   「確か真竜の熱を胎内(ここ)で受け止めると、俺はお前の物だという香りを発し、お前の聲に縛られるのだと教わった」 「……はい」    それは『真竜の御手付(みてつ)き』と呼ばれるものだった。胎内を真竜の熱によって灼かれた者は、『この真竜のものなのだ』という特有の香りを身体から発するようになる。そして神気の籠もった『竜の聲』を聞くと、所有者のその意思に喜びを感じて従うのだ。   「──縛ってくれ。もうお前から逃げ出さないように、お前の存在で俺を縛ってほしい、白霆」 「ですが……」    何か言いかけた白霆の言葉が不自然に止まった。  それもそうだろうと晧は思う。  すでに雄蕊(ゆうずい)の宛がわれている後蕾を、両手で見せ付けるように広げて見せたのだから。   「来いよ……はくてい」                      

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