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第100話 銀狐、恥ずかしがる 其の一
朝の爽やかな空気を感じ取って、晧 はぴくぴくと耳を動かした。どこか頭がぼぉうとしながらも、薄っすらと目を開ける。目蓋がひどく腫れぼったい気がした。それでも何とか目を開ければ、見慣れない天井の木目が視界に入る。
ここはどこだろう。
自分は何をしていたのだろう。
(……そういえば、白霆 は……)
まだ目覚め切っていない頭でそんなことを思いながら、晧はいつも通りに身体を寝台から起こそうとした。
だが。
「──痛 っ! っ……!」
それは今まで経験したことのない腰の痛みだった。再び敷包布に背中を付けたが、痛みは治まらない。
そして腹の奥の方に感じる疼きにも似た鈍い痛み。
(──ああ……そうだ……っ)
頭の中がはっきりとしてくるにつれて、思い出されるのは昨日の情事だった。
何かの文献で初めてならばこういうものは、痛い記憶が強く残ってそれ以外の記憶はあまり残らない等、書いてあったというのに。覚えていないのは情事の最後ぐらいで、それ以外はしっかりと覚えているじゃないか。
自分がされたことも、したことも。
不意に脳裏に浮かんだのは、雄蕊を挿入 るのを躊躇っていた白霆に、自ら受け入れる部分を両手で広げて見せて、誘うような言葉を掛けたこと。
──こいよ……はくてい。
(う、うわあぁぁぁぁぁぁっ!)
鮮明に思い出してしまって、晧は心の中で絶叫した。
痛む腰を我慢しながら、部屋の引き戸に背を向ける。怠い腕を何とか動かして、上掛けを頭からすっぽりと被った。
もしすぐ目の前に卓子 があるのなら、頭を打ち付けてあの記憶を消してしまいたい心境に駆られる。
恥ずかしくて堪らないのだ。
だがどんなに自分の記憶を消したとしても、白霆は覚えている。
晧にとってはとても居たたまれない、あの行為と言葉を。
そして昨夜の情事全てを。
白竜の熱を受け止めた後の記憶がなかった。だが身体はとてもさっぱりとしていて、寝台の敷包布も上掛けもさらりとしている。きっと全て白霆が世話をしてくれたのだろう。
(俺の身体……拭いた、のか……!)
彼が晧の身体を拭き清めたのは、これが初めてではない。それにあの情事の後だ。白霆が触れなかったところなど、どこにもないと言わんばかりに愛でられたというのに。
だが意識のないところで自分の身体を見られている、触れられている、その状況は情事とはまた別物だろう。恥ずかしくて仕方ない。
一体どんな顔をして白霆を見ればいいのだろう。
晧の心は複雑だった。
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