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第101話 銀狐、恥ずかしがる 其のニ

 いまは羞恥心がいっぱいで会いたくないと思う反面、何故隣にいないのだろうという相反する気持ちが鬩ぎ合う。   (……そういえば)    不意に(こう)は思い出した。  多分自分は少し前に一度目が覚めている。  うろ覚えなのはきっとまだ半分眠っていたからだ。  白霆(はくてい)の名前を呼ぼうとして、声がすっかり掠れてしまっていた自分に、彼は言った。    ──竜形になった時に、卓子(つくえ)にあった水差しを倒して零してしまったようです。新しいの貰ってきますので待っていて下さい。  ──ん……待ってる。  ──……はい。待ってて下さいね、晧。     そうして額に落とされる接吻(くちづけ)の心地良さに、再び眠ってしまったらしい。  この部屋が離れとはいえ、水差しを貰いにいっただけなら白霆はすぐに戻ってくるだろう。   (──どうしよう)    心内の自分の声に、どうもこうもないだろうと自分を叱り付ける。  その須臾(しゅゆ)。   「……晧?」    すぐ上から降ってきた声に、晧はびくりと身体を震わせた。いつ部屋に入ってきたのだろう。全く気配など感じなかった。自分の妙な姿を見せたのではないかと、晧は頭まですっぽりと覆った上掛けの中で狼狽える。   「どうされたのですか? そのように丸まって。お水持ってきましたよ。喉、乾いたでしょう?」    確かに喉は乾いていて、いますぐにでも水を飲みたかった。声も掠れている。だが水を飲むためには白霆と顔を合わさなくてはならない。何故喉が乾いて声が掠れているのか。彼の顔を見てしまったら、その原因を今よりも鮮明に思い出してしまう。   白霆が持ってきた水を、卓子に置く音が聞こえた。  寝台の軋む音も聞こえてきて、彼が自分のすぐそばに座ったことが気配で伝わってくる。   「もしや……具合が悪い、ですか?」    白霆の熱い手が晧の背中を上掛け越しに、優しく手付きで撫でた。その力加減がとても気持ちがいい。  晧は白霆を見ないように頭と狐耳だけを、上掛けからひょっこりと出した。  そうしてふるふると頭を横に振る。   「そう……良かった。痛みは……ないですか?」    彼の言葉に晧の動きが分かりやすく止まった。  確かに腰は痛かった。腹はまだ何か挿入(はい)っているかのような感じが残っていたし、鈍い痛みがする。  だが決して不快な痛みではなかった。恥ずかしくて堪らないがこの痛みが昨夜、白霆と想いを交わし情を交わした何よりの証だ。  

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