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番外編 銀狐、本当の大きさを知る 其の七

『……へ?』    晧はきょとんと麒澄を見た。  麒澄が更に質の悪い笑い方でくつくつと笑っていたが、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。  確かに自分は白霆に会いたかった。だが意地もあって、中々薬屋(ここ)に会いに来ようとは思わなかった。だが今日になって『会いたい』という衝動の方が勝ってしまった。   (会って、知りたいと思ったのは)    白霆という番を本能で求めているから。  彼の全てを知りたいと思ってしまったから。   『……っ!』    そう自覚した途端、顔に熱が溜まってしまったかのように、かっと熱くなった。狐の姿で番に抱かれている自分が、ひどく居たたまれない。臀部を支える腕と胸部に回されている腕、そして背中に感じる彼の温もりすら、気恥ずかしく思えてしまう。  晧は思わず前脚で頭を抱えた。  そんな晧を見た麒澄が、ついには大きな声を上げて笑い始めてしまって、更に恥ずかしさを覚える。   「……まあこれからどうするかは、お前達で話し合うことだ。 馬鹿弟子、もししばらく来られそうになかったら、折式を送ってくれ」 「では先にもう、しばらくの間お休みを、と申し上げておきます」 『──は?』    晧が再び敏速に白霆の方を振り返ったが、彼の視線は麒澄を向いたままだ。その表情は何故かひどく穏やかで、時折晧の腹部を撫でたりもしている。  白霆の言葉を聞いた麒澄は、更に大きな口を開けて笑った。   「ここまで潔いと気持ちが良いもんだ。面白いものを見せて貰ったんでな、俺から餞別だ」    麒澄は卓子の引き出しを開けると、何やら探し始める。あったあったと、卓子の上に出したのは二つの薬袋だった。   「こっちの白い袋が魔妖専用の避妊薬、こっちの茶色の袋が共通の発情抑制剤だ。真竜は自身の蜜月が終わっても、番の発情に引きずられて発情する、厄介な性質を持ってるもんでな。しかも蜜月よりも、番によって発情させられた方がより強いときてる。ま、どっちも望むところだって言うなら不要だろうが、御守りだと思って持っていけ」   『──ひ……、よ……』    避妊薬に抑制剤。  その意味のあまりの気恥ずかしさに、声にならない声を晧は上げた。きっと人の姿だったら、顔が真っ赤になっていたに違いない。それほどまでに顔が熱くて仕方ないのだ。   「有り難く頂いていきます、医生。それではまた連絡いたします」    薬袋をむんずと掴んだ白霆が、再び狐姿の晧の胸部に腕を回す。彼の腕の上にちょこんと前脚を乗せた状態の晧は、より近くなった薬袋の存在に何も言えないまま、顔を前脚に(うず)めたのだ。                    

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