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「大丈夫か?」
少年の耳元で旦那が静かに訊く。ずいぶん優しい声を出すんだな。
それを受けて少年がこくこくと懸命に頷く。少年といっても髪が少し長い。女子のショートってこんなだよなって感じの髪型。
…ふうん。コイツが旦那の恋人か。こんなところでセックスするくらいだから、そうとう仲がいいんだろうなあ。
「あ、あ、あ、あ…」
旦那の動きが速まると、少年はこぶしを振るわせ、泣きそうな声で喘ぐ。
ぼくは旦那がどんな表情でやっているのか見たくてガン見したけれど、長い前髪はほぼ頬まで隠していたし、風が吹いてちらと顔が見えても表情までは判然としない。ただ唇は昂奮の影もなく、まるで勉強中みたいにまっすぐに閉じられていた。ずいぶんと冷静におセックスするタイプらしい。
(ちぇ。つまんねえな、興奮してるタカハシ、見たいのにな)
ぼくはがっかりした。旦那は鼻を広げてフンフンいうようなタイプじゃあないみたい。
だって、ここにいても旦那の声が聞こえないんだもの。息遣いすら、聞こえない。いったいそんなんできちんとチンコは勃っているのかしら。ぼくのほうが心配になってくる。まあでも、悟さんもあんまり声を出さないか。息遣いは少し、するけど。
別にきちんとチンコが勃っているのかを確かめたかったわけじゃないけれど、ぼくは二人の繋がっている「部分」を観察したくて、大胆にももうちょっと顔を前に出した。もう、こうなると気持ちはモンシロチョウやカブトムシの幼虫の成育を観察するのとあまり大差ない。
旦那は少し遠慮気味に入れているらしい。根元までガッツリ、という感じじゃない。…えーと。つまり有り体に言えば、繋ぎ目から旦那の根元がずっと見えているのだ。オレは根元まで入ってオリマセンってそのチンコが宣言しているわけ。
でもさ。それってやっぱり、タカハシの旦那の優しさなんじゃないかな。
見た限り、旦那のブツはその体格に比例してとてもでかいけど、それを根元までぶっこまれたら受ける方は本当につらい。そういうの分かってて、気を遣って浅くしてんだろうなあって、ぼくは感じる。
男だったら根元まで入れたくなるところを、相手のことを慮って我慢してるんだろう、きっと。それに、あれくらいの挿入の方が前立腺への刺激にもなるから、受ける方は気持ちいいだろ。そんなところも計算済みなのかもしれない。
(…はー。こういうやつもいるんだなぁ…)
ぼくは、彼らのセックスを見ながら、というかその繋ぎ目をガン見しながら、いつになく心が動いて溜め息が出そうになった。これは感動の一言では言い表せない複雑な心境だぞ。
――そう。こんな感じで、この時点まで、ぼくは見ていた。
しっかりとお繋ぎ目の一点を凝視して、その意図をご丁寧にも推し測り、「観察している側」だったのだ。
なのに。
ふいに背筋が寒々として、嫌な感覚に囚われた。誰かに「見られている」という感じがしたのだ。柔らかな筆で背中をザワリとやられたようだった。
はっとして視線を跳ねあげた。
途端に体が硬直する。
タカハシの旦那が、こっちを見とる。
長い前髪の隙間から切れ長の目を横目に流して、確かに、ぼくを見とるで。
(やっべえな)
旦那と視線が重なり、ぼくはどうしたらいいもんか思案にくれて、文字通り引っ込みがつかなくなった。さすがに今回ばかりはタカハシも、「なにを見ていやがるんだ」とぶん殴りに来るか、もしくは「お前、ちょっとあとで顔貸せよ」とメンチを切るかもしれない。
これは面倒くさいことになりそうだと、あまりに浅はかだった己の好奇心を悔やみつつ、ぼくはごくりと唾を飲み込んだ。瞬間、にやりと旦那の口の端があがる。
驚きで目をぱちくりしながら、念のためにぼくはもう一度、旦那の口元を確認した。
確かに、ぼくを見て笑っている。
(それって覗き見しててもいいってことか?)
頬に微妙な熱を感じながら、ぼくはその微笑みを「覗きオッケー」の合図として勝手に解釈した。しかしそれでも少年が気付いたら恥ずかしいだろうし、それでは可哀想だから、やっぱり片目をそっと使うくらいに頭を引っ込めた。
いよいよ旦那も絶頂を迎えるらしく、ぼくから視線を外してピストンを早める。
「あ、あ、あ、あ…!」
少年もつらそうだ。旦那が少年のを握る。
「一緒にイける?」
旦那の甘い言葉に、少年が頬を紅潮させて頷く。
旦那は自分の腰を動かしながら少年のを扱き始めた。えれぇ器用だな。ぼくにがつんがつんピストンしながら鞭をふるう悟さんよりも難しそうなことしてる。
「あ、あ、あ…! いく。いっちゃう!」
体を小刻みに揺らしながら少年が叫ぶ。
「あ。あ。あ。…いくよ?」
「大丈夫。イっていいよ」
旦那が優しく囁いた。
「あ…、ああ…!」
少年が迸らせるタイミングをねらって旦那は後ろからその膝を折り、ザーメンで制服が汚れないところに向けて射精させる。と同時に、ご自分も中でイったらしい。双方の動きが止まって、肩で荒く息を始めた。
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