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ぼくは唖然とした。
なんていうか。
お見事。
いや、まっこと、なんと見事な幕引きでありましょう。優雅な舞でも見させていただいたようでありんす。
まじで、タカハシ、すごいな。こんな終わり方、どうやったらできるんだ?
こりゃこの旦那、かなり遊び慣れてんな。それともこのアンティノウス少年が旦那をここまでスマートな男に育てたのであろうか。
がっくりと腰を落とす少年の脇を旦那が支える。そうだ。このあとも旦那がどう出るかしっかり観察しなきゃ。チンコ舐めろなんて、まず言いそうにないけど。
旦那にかかえられるようにして、少年が地面べたにしゃがみこむ。ぼんやりして息を荒げるほかはもうなにもできないっ、脱力っ、て感じ。…分かる、その感じ。
旦那は制服のズボンを履くと、ティッシュを取り出して少年の尻の穴に当てる。
「出せるか?」
少年が小刻みに首を振って拒否する。
「出した方がいい。下痢するから」
へえ。知らなかった。ぼくなんて、いくらザーメン溜め込んだって腹くだしたことないけどな。よほど丈夫にできてんのかしらん。
ここに至って、ぼくは覗き見をやめた。
顔を引っ込め、その場で体育座りをして壁に寄りかかった。はいはい、お二人さん。ご馳走さま、という気持ちで。
結局、ぼくと悟さんのセックスがどれほど正常から外れているかなんて、こんなアツアツのお二人から判別すること自体、無茶な話なのだった。
あのアンティノウス少年は身請け先の決まっている花魁様なのだ。SM目的に買われた女郎の佳樹くんとは格が違いすぎる。だから旦那様にもあんなに優しくしてもらえるというわけで。こういうのって、なかなかヘコむ現実だ。
しばらく経って声がする。
「そろそろ保健室に戻らないと。いないことがバレるぜ」
ほう。そのようにして逢瀬を愉しまれてらしたのですね。
「先輩、もう一度キスして…」
と、少年。ああん。もう。なんて甘いのアナタたちは。
「今日は、ありがとうございました」
――へ?
……アリガトウゴザイマシタ?
ぼくはのけぞった。
なんだそれ。どういう挨拶だよ。恋人同士でも先輩と後輩だと、まるでおセックス部の部活動が終わったみたいにそう言っちゃうのかしらん。変なの。
「じゃあまた」
なんて別れの挨拶が聞こえてくる。まもなく角からタカハシが姿を現した。ぼくは思いきり含み笑いを作ってタカハシを見あげた。
「見られちゃったか」
もう少し気まずそうな様子をしてもよさそうなのに、初対面のときにぼくに見せたのと同じ、余裕綽々な微笑を浮かべている。
「ばっちりね」
なんたってお繋ぎ目までガン見しちゃったし。
「オレ、もうあんたの弱み、ふたつも握ってるね。タバコと、おセックスと」
ニンマリとからかってやった。
どうもこう、飄々とした旦那を見ているとつい、藪から蛇を出してみたくなる。小突いて反応を見たくなる。ああ、いけねえいけねえ。
「いまのことは誰にも言うなよ」
「なんで? さすがにゲイのロリコン趣味ってのは、誰にも知られたくないわけ?」
言いながら、ちと言葉が過ぎたかなと思ったりする。
「そうじゃない。こんなことが噂になったら、あいつが可哀想だから」
ぼくの失礼な言い草はスルーしてさりげなく返す。なに、男前な態度で男前なことをぬかしやがるんだろう。ほんとムカつくな、こいつ。
「はいはい。おたくたちのおアツイのは分かりましたよ」
ぼくは立ちあがってズボンの塵をはたいた。
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