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第38話 アジト襲撃

「囲まれている。父さんだ」と、スティールが言った。 「アジト周囲に軍が集まっているよ。王宮を離反した奴らだろうね」  博士は箱を見ていた。おれも真似をして、その箱を覗き込んでみると、そこには、いくつもの映像が見えた。まるで鏡みたいだった。 「これはなに?」 「アジトの周辺に監視装置を置いている。ここにはその映像が送られてくる仕掛けだ」 「すごいね。まるで遠くのことを見る魔法の鏡みたいだね」 「これも古の知識さ」  まさか監視されているとは思ってもみないのだろう。草むらに潜む騎士たちの姿がまる見えだった。 「くそ。なめられたものだ」 「しかもこのタイミングとはねぇ」  先生も顎に手を当てて軽い調子で言った。 「まるでみんながいなくなったのを見計らっているみたいだな」 「かなりの数だよ。我々だけで耐えられるかい? スティール」  博士の言葉に、スティールは唸った。 「父さんの相手はおれがする。博士と先生は、凛空を連れて脱出して欲しい」 「わかった」 「でも!」  スティールたちだけを置いていくことはできない。おれは首を横に振る。しかしスティールは厳しい表情で言った。 「いいか。凛空。お前は、どんなにたくさんの命を犠牲にしても、生き残らなくてはいけないのだ。先生、博士。そのあたり、お願いします」 「わかっているよ」  先生は大きく頷いた。 「おれが盾になってやるから、安心しろ」 「そんな! そんなのおかしいよ! みんなの犠牲の上に成り立つ歌姫なんて。先生は自分を大切にしろって言ったじゃない。おれはそんなこと絶対に許さない。みんなが助かる方法があるはずだよ!」 「そんなこと言っても……」  困惑した表情を見せたスティールに対し、シェイドが言った。 「博士。敵はどこにいる?」 「そうだねえ。南の出入り口に多く潜んでいるようだよ。幸い北の出入り口は見つかっていないようだ」 「だったら一つだけいい案があるじゃないか」 「いい案?」  シェイドは頷く。 「どうせ応戦している余力はこちらにはない。敵をできるだけ中に引き込んで、南北の通路を塞いじまったらどうだ?」  彼の意見に博士は手を鳴らした。 「なるほど! それはいい案だ。南から敵を誘い入れたところで入り口を塞ぎ、我々が脱出した後に、北口も塞いでしまえばいい。火薬がある。それで北通路を陥没させよう。そうすれば、内部に入ってきた敵からの追撃はかわせるだろう」 「しかし南口を塞ぐには、火薬の取つけと起爆をさせないと。危険な役割だぞ。あいつらに見つかる可能性がある」 「おれがやる。おれは、あんたたちよりも夜目が利くからな。大丈夫だ。心配ない」 「シェイド。危険だ。おれが行く」  スティールはそう言った。しかしシェイドは首を横に振った。 「お前は革命組のリーダーだ。お前がいなくなったら革命組は終わりだ。老虎たちが帰る場所がなくなったら困るだろう? 任せろ。こういう時のためにおれは残ったんだ」 「しかし」  彼は愛嬌ある笑みを見せた。 「おれは狐族だぜ? 人間とは違って素早いんだよ。半刻後、南通路を潰したらすぐに北口に向かう。お前たちは北口から外に脱出しておけ。大丈夫だ」  彼はさっさと作戦会議室を飛び出して行ってしまった。止める間もない。彼は闇にすっと紛れていった。スティールは苦しそうに表情を歪めた。  人の上に立つ者の宿命だ。辛い選択を迫られることもある。サブライムもそうだろう。二人はきっと同じ苦しみを共有している。いい仲間になれると思った。  この場面を乗り切って、もしサブライムに会えたら。その時は、「スティールと仲直りをしてください」って伝えよう。  スティールは少々黙り込んだ後、いつもの表情に戻り、それからそこにいたみんなを見渡した。 「あいつは必ず成し遂げて戻ってくる。おれはそう信じている。よし、さっそく手分けして、北通路を塞ぐ火薬を準備し、トロッコに乗り込むぞ。アジトは捨てる!」  おれはスティールたちに連れられて、通路を歩いて行った。

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