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第14話、再会は突然に

 無くなりかけてた調味料や食材を買って帰路を辿る。  何袋かに分けた荷物はそのまま運ぶには重い。  人目がないのを確認してから箒を元の大きさに戻し、柄の部分に荷物を下げてその上にエスポワールも跨らせてやった。 「キャー!」  箒で飛ぶのが好きなエスポワールが、キャラキャラと笑いながら喜んでいる。 「ちゃんと掴んでるんだぞ?」 「はい!」  暫くの間歩いていると、急に後ろから影が出来たのが分かって慌てて振り返った。  気配も全くしなかったので、驚きを隠せない。  見た事もない大男が立っていてジッとこちらを見下ろしている。  サーシャが言っていた輩かも知れない。  レオンは慌てて箒に指示を飛ばした。 「エスを乗せたままこのまま家まで飛べ!」  近くで操作していなくても家につくまでの間くらいは魔力量も持つだろう。  箒が加速したのを確認してから、レオンは男を見つめた。 「〝僕〟に何か用ですか?」 「レオ……ン?」  呆然としたような表情で名を呼ばれ、レオンは目の前にいる黒髪で浅黒い肌の色をした男の頭から足まで眺める。  こんな知り合いはいない。  逡巡した後で、自分は今、個体識別誤認識魔法をかけていたのを思い出す。  ——どうして、魔法をかけているのに識別出来た? 誰だ?  警戒心を露わにすると、男は眉尻を下げて柔らかく笑んだ。  良く知っている笑い方に目を瞠る。  ——まさか……。いや……でも。  男の周りで光が弾けて、さっきまでの男の顔が変わっていく。 「ラ、ンベルト……?」  驚きすぎてそれ以上言葉が出てこなかった。  ただでさえも高かった身長や鍛えられたような筋肉のついた肉体がもっと育っている。  ローブの下から見えた鎧は、魔法師というより騎士のようだった。  覇気が備わり堂々とした佇まいがそう感じさせるのかもしれない。  顔立ちも幼さが抜けたようにスッキリしていて、髪も伸びてかなりの美青年になっていた。 「レオン会いたかった」  正面から持ち上げられて抱きしめられると背がしなった。 「何で此処に?」 「エスポワールに言っていたんだけど聞いてない? 国も落ち着いたから迎えにきたんだよ。産んでくれてありがとうレオン」 「悪い……ランベルト。降ろしてくれ……」  口調が固くなってしまう。  迎えに来たと言われて「はいそうですか」と返事が出来る訳ない。  もうレオン達の生活は確立していて崩せない。学生だった頃の自分たちじゃない。 「一緒には……行けないよ」  ランベルトの目を見れなくて俯く。  会えたのは嬉しかったし、無事でいてくれて安心もした。  こうして言葉を交わしたのも、泣きたいほどに嬉しい。  顔を上げてランベルトの顔をきちんと前から見て、本当に怪我がないかを確かめる為に食い入るように視線を這わせる。 「記事で精霊族の国の事件見たよ。大変だったな……ランベルトに怪我も無さそうで安心した。でも、俺たちには俺たちの生活があるんだ。迎えに来たと言われてもそっちには行けない。分かってくれ」 「分かりたくない」  はにかんだ笑顔を久しぶりに見た。 「ランベルト」 「じゃあ俺が此処に住むのは?」 「は?」  無茶苦茶な所は相変わらずだった。少し肩の力が抜けていく。 「いや……お前精霊族の王様だろ。それにうちにはお前が入るスペースはないぞ。うちを破壊する気か?」  ランベルトが表情を崩して、笑いをこぼした。 「それなら作り直す。もうレオンと離れたくない。何のために頑張って三年で片付けたと思ってるの。レオンに会いに来る為だよ。ねえ、何でそんな魔法かけてるの。レオンの綺麗な色をみせて。俺の大好きなレオンの青を隠さないで」 「隠れる為に必要なんだ。それにしてもどうして俺だと分かった?」  個体識別誤認識魔法は強力な魔法で、例え魔法師だろうと見破れる程容易いものじゃない。 「どんな魔法が掛かっていても、俺がレオンを間違える訳ないじゃん」  魔法を解かれて、レオンの素顔と髪の色が顕になった。 「レオン、好き。大好き。何で俺の気持ちが本物だと理解してくれないの? 結局薔薇の意味にも気が付いてくれなかったし、連絡もくれないし。何が足りないの? そんなに俺の事嫌なの?」  ——薔薇? やっぱりあの意味で正しかったのか。  気恥ずかしくなって目を細めた。 「お前が学園からいなくなった日、メッセージを見て、お前を殴りたくなったくらいには伝わったよ。初めっからて何だよそれ。契約なんて持ち出さないで、そう言ってくれたら良かったんだ。そしたら俺だってちゃんと真剣に考えたし、勘違いもしなかった。バカだお前っ。薔薇は、教えて貰ったから意味には気が付いてたよ。でも俺の都合の良い勘違いだと思ってた」  滝の様に涙が溢れてきて、両手で懸命に拭う。 「泣かないでレオン。俺の事はやっぱり好きになれない? 軽蔑する?」 「する訳ないだろ。あんなの売り言葉に買い言葉みたいなものだよ。それに好きでもない奴の子を産んで育てようなんて思わない」  はっきりと言えなくて、重い口を一度閉じた。 「え、それって……」  ランベルトが見た事もないような間の抜けた顔をしている。少しおかしくて、口元に笑みを浮かべた。 「鈍すぎるんだよ、お前。ランベルト…………好きだ」  いつからなのかは正直分からない。  でも優しくて無邪気で真っ直ぐなランベルトに惹かれていた。  決別に至った経緯は悲しさしかなくて、離れた初めの一年間は、二人が寝静まったのを確認してから庭でずっと泣いていた。  二年目でやっとランベルトが居ない生活に慣れてきて、泣く回数が減った。  三年目は、一人で外に出た時は常に海を眺めた。  ランベルトみたいなパライバトルマリン色だったから。  そこから登る朝日を見て、いつかランベルトと見た朝日を思い出していた。  落ち着いてきたけれど、想いだけはなくならなかった。 「好きだよ、ランベルト。契約を早めに終わらせたかったのは、お前の事を本当に好きになったからだ。契約に抵触してしまったらもう続けられないと思った。お前が言う〝ごっこ恋人〟に言う好きとは違うと思ってたから。俺は皆んなと一緒は嫌だった。俺だけに言って欲しかった。ランベルトを独り占めしたかった。でもこの気持ちと移住は別問題だ」 「嫌だ。やっとレオンの気持ちを聞けたのに、離したくない」  再度持ち上げられて抱きしめられる。 「ねえ、本当に? 本当に俺の事好き? これ夢じゃない?」 「夢じゃないよ。俺は今でもランベルトを愛してる」  逞しい首に両腕を回すと、片腕で持ち上げられたまま口付けられた。  後頭部に回された大きな手に押さえられてしまい、口付けから逃れられなくなる。  やがて口内に潜り込んできた肉厚の舌が縦横自在に動き舌を絡め取られた。軽く吸われてすぐに離される。 「ん……っ、ん……待て……ラン……っ、んぅ!」  息継ぎの合間に紡ごうとした言葉は、すぐにランベルトの口内へと消えていく。 「待っ……、は……っ、ここ……ぁ、外!」  解放された時には息が上がりまくっていて、すぐ目の前にあるランベルトの頭を思わず叩いた。 「レオン、そのお方を家へお招きしなさい」  ——へ?  背後からかけられた言葉に恐る恐る振り返る。そこにはサーシャの姿があり、何だか後ろめたいような感情が生まれた。  ランベルトに降ろして貰って「母のサーシャだ」と紹介する。 「精霊王様、こんな所まで御足労下さり感謝いたします」  深々と頭を下げたサーシャをランベルトが見つめた。 「いや、私の方こそ突然すまない。気遣い感謝する」  ——私⁉︎ 「ランベルト、お前……ちゃんとした話し方も出来たんだな」  真っ先に浮かんだ素朴な疑問だ。 「王という名の猫を被ってる時だけだよ」  ランベルトと関わってきた中で一番驚いた瞬間だった。

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