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第15話、青の一族

 ——落ち着かない。  ランベルトが己の家にいて、家族とテーブルを囲んでいるという図式はレオン的にシュール過ぎた。 「おいで、エスポワール」 「パパー」  エスポワールだけは夢で繋がっていただけあって、ニコニコしながら嬉しそうにずっとランベルトにくっ付いている。  エスポワールの頭をランベルトが撫でて膝の上に乗せていた。  ランベルト用に紅茶を淹れて、サーシャと自分の分のお茶、エスポワール用に幼児用の野菜ジュースのパックを置く。 「レオン、これ……」 「大学院にいた頃、お前がこの青いパッケージの紅茶が好きって言って出してくれただろ? 俺も美味しいと思ったんだ。庶民にも手の届く価格だったから良く買う……ちょっ、何で泣いた⁉︎」  取り出してきたハンドタオルでランベルトの目を押さえると、エスポワールが「いたいいたいのとんでけ」とまじないをかけはじめた。 「ひるまはレオンがないてたのにね〜」 「待てエス! いらん事は言わんでいい!」 「レオン泣いたの? 何で?」  ランベルトが問い掛ける。 「あのね、パパがいまでもあいしてるっていったから〜」 「エスーーっ‼︎」  まさかの息子からの大暴露に顔から火が出そうだった。 「ふふふ、あははは。あー、おかしっ」  突然サーシャが笑い出し、レオンはギョッと目を剥いた。  サーシャがこんな風に笑うのを初めて見たからだ。 「あー、もうダメ。お腹が痛いわ。一時は、勝手に人の息子を孕ませるわ、勝手に孫の名前も決めるわ、あんな大金押し付けるわ……どんな暴君な王様なのって思っていたのだけれど、血は争えないのかしらね、あの人にも見せてあげたかった」  茶をすすり、サーシャが一息ついた後で言った。 「潮時だね。暴君だったら王様だろうが何だろうと叩き出してやってたけど、違うみたいだし。レオン、お前の父さんは精霊族のドラゴン属の末裔だよ。ずっと人族としてお前を育てて人族の国で暮らさせたけど本当は生粋の精霊族だ」 「ええ、そうなの⁉︎」 「それは本当か⁉︎」  レオンとランベルトの声が重なる。 「いや……だがドラゴン属の血を引く者は俺たち王族だけ……」  そこまで言ったランベルトが一度俯き、ハッとしたように顔を上げた。 「レオンの色合いは気にはなっていた……もしかして古の青い一族の生き残り、なのか?」  ランベルトのセリフにサーシャが頷く。 「何だよその青い一族って」 「前にレオンに話した通り、その一族は俺たちが生まれる数億年前には絶滅している。防御力特化のドラゴンだ。しかしこの事は精霊族の中でも王族にしか伝えられていない。俺はそう聞かされて育った。それが先週、漸く捕らえた前王たちを殺害した一味のボスが口にしたんだ。〝青の一族が戻ってくる〟と」  それを聞いていたサーシャが勢いよく立ち上がった。 「その一味は全員捕らえておられますか?」 「いや、二人逃してしまった。もう実質上奴らは空中分解していて何の力もない。捕らえた者たちは口が硬くて、全員口内に仕込んでいた毒で自害した」  サーシャとランベルトが話している横で、退屈し始めたエスポワールがグズりはじめている。 「ごめん。俺エスとリビングにいるよ」  ランベルトの膝の上からエスポワールを下ろして、隣の空間に移動する。 「エス、何して遊ぶ?」 「おえかき〜」 「エスは本当にお絵かきが好きだな」 「すきー」  ダイニングテーブルでランベルトとサーシャが真剣な話をしている間、レオンとエスポワールは絵描きセットを出して、そこに描き始めた。  時折り、ダイニングから聞こえてくる会話を気にしながら、エスポワールの絵を眺める。 「上手くなったなエス。青いドラゴンカッコいいな」 「これレオン〜」 「俺?」 「うん。レオンのなかにね、あおのドラゴンいるの」 「え?」  ——それってさっき言ってた青の一族だからなのか?  夢の事といい、エスポワールには何か別の能力でも備わっているのだろうか。  エスポワールが描き始めたドラゴンらしき生き物をレオンは食い入るように見つめる。 「何か俺かっこいい。強そうだ。本当にこれくらい強そうだといいんだけどな。ありがとな、エス!」  レオンがエスポワールの頭を撫でると、エスポワールが得意げに笑った。 「もう既出情報かもしれませんが、これは役に立ちませんか?」  mgフォンを映写機代わりにして、サーシャがいくつかのファイルを開いて写真と情報を空に浮き上がらせる。  まるで諜報員が収集したような詳細な情報を見て、ランベルトが興味深そうに目を瞠っていた。 「全て拝見しても構わないか?」 「勿論です。私はあの子達の秘密が外部に漏れないように目を光らせ、青の一族を追っている者たちを逆に捜査しています。特にレオンはあの見た目でしょう? 人族の中には色合いは多少違っていても、青い髪色は結構いますので、紛れ込ませる為に今までは人族として登録していました。魔法師に憧れているあの子には悪いとは思いながらも、魔法力が五分の一まで落ちるようにリミッターをかけて人族に見える特殊魔法を重ね掛けしています。ドラゴンの血を制御させる方法をレオンに伝える前に主人は亡くなりましたので。それに、外部に青の一族の末裔が現存すると知られたくなかったからです。同じくエスにもかけています。産まれたばかりのあの子を見た時、相手は貴方だとすぐ分かりました。エスポワール……人族内のある国にある言語で、希望という意味ですよね。素晴らしいお名前をありがとうございます。ところで何故うちのレオンだったんですか?」  ——え、リミッター?  これも初めて知った。  エスポワールの名前の意味も。適当につけたのではなく、ちゃんと意味があったと知り、感極まる。  二人の会話に耳をそばだてながら、エスポワールに目を向けた。  サーシャの言葉に静かに耳を傾けていたランベルトが表情を崩して口を開く。

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