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第16話、真実と謎の男たち
「ずっと俺の片想いでした。元々俺には王としての素質はありません。退屈な日々を誤魔化す為にヘラヘラ笑って適当に生きていた俺に真っ向から意見をくれたどころか、軽蔑すると言って平手打ちまで食らわせたのがレオンでした。例え正解が黒だとしても、俺が白と言えば白にしかならない世界で、初めての経験でした。それからはレオンの気を引きたくて色々やりましたよ」
途中で何かを思い出したようにランベルトがフッと笑みをこぼす。何処か照れくさそうに鼻に触れ、また口を開いた。
「散々口説き倒して隣にいる権利をやっと手に入れた。レオンと一緒にいるのは今まで生きてきて一番楽しかった。でもやり方を間違えてる事に気がついたのが遅くて……。初めて他人を好きになったから、どう修正して良いのかも分からなかった。卒業と共にレオンが俺と縁を切ろうとしているのが分かって、衝動を抑えきれずにまた間違いを犯しました。今となれば、子ども過ぎて自分でも失笑しか出ません。順番を間違えてしまい、本当に申し訳ありませんでした。でも俺は出会った時からずっとレオンだけを愛してます。離れても想いは変わらなかった。もう離したくない。共に生きていきたい。俺にはレオンじゃなきゃ駄目なんです。なのであなた方を迎えに来ました。一緒に精霊族の国で暮らして貰えませんか?」
——なんだこの暴露話は……。
恥ずかしくて頭が沸いてしまいそうだった。
どうせなら学生の頃に聞きたかった。そしたら仲違いなんてしなかったのに。
回ってくれそうにない思考回路でグルグルと考えていると、サーシャがフハっと笑い声を立てる。
「レオンーおかおまっか〜おねつある?」
近くに寄ってきたエスポワールに正面から見つめられて、居た堪れなくなり小さな体を抱きしめる。
「ないよ、ありがとな。でもエスお願い……バラさないでくれ」
コソコソと隠れるようにエスポワールと話していると、サーシャが砕けた口調で言った。
「そこまで言ってもらえてレオンは幸せ者だね。私は構わないよ。一時期とは言え、住んでいたからね。レオンはまた自力で口説いておくれ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よってね。エスを落とせば陥落すると思うよ」
喉を鳴らして笑いながらサーシャが言った。
「そうしよう。一週間ほど世話になりたいのだが……?」
「そっちの国が大丈夫ならいつまでいても構わないさ」
とんとん拍子に話が進んでいってて慌てた。サーシャがあっさりと抱き込まれたのにも驚きを隠せない。
「待って! ちょっと待ってくれよ。そんな事言われても……俺は……っ!」
「この国に帰ってきてから、夜更けになると、かの国の王様を想ってずっとジメジメ泣いてたくせに何言ってるんだい?」
サーシャにニヤリと笑みを浮かべられる。
「何で知ってるんだよ! てか、言わないでくれ!」
「え、何それ見たかった」
「ランベルト、口調が元に戻ってる!」
暫くの間は三人で笑いながら言いあいになった。
「さて、本題に戻ろう」
サーシャが口を開き、逸れた話を軌道修正するとランベルトが言った。
「このリストの中に、取り逃した内の一人がいる。あと、もう一人は顔はハッキリと見えなかったがこの男かもしれない」
空に映し出された画像が勝手に動き出す。
カメラを向けた時からシャッターを切るまでの動きをトレースする形で納められている。そのせいで動画のような動きになる魔法写真だ。
「その二人は青の一族を復活させようとしてるカルト教団の幹部だね。どこから嗅ぎつけたのか分からないけれど、レオンが在学中に引っ越す前の家に来た事があるよ。知らぬ存ぜぬを通して追い返したけれど。まさか暗殺にも関わっていたなんて……。青の一族の存在をチラつかせてたのなら、もしかしたらまだレオンを探しているんだろうね。レオンの青い毛色をとても気に入っていたから」
その言葉にランベルトの眉尻がピクリと跳ね上がった。ゆっくりと細められた瞳が冷めたものへと変わる。
「レオンの毛色は確かに珍しいがそこから何故青の一族と繋げられたのか……大学院内に繋がりのある奴がいた可能性もあるな。レオンのDNAを採取して調べたか……」
ランベルトの言葉にサーシャが頷く。
「私はそう見てるよ。エスが産まれたのも大学院内だからね」
「DNAて何でそんな事……。リミッターの事もだよ。どういう事?」
「ああ、それに関しては俺から説明しよう。ドラゴンの魔法力は桁外れなんだ。幼少期から制御する訓練を受けないと己の魔法力で自滅する危険性がある。それを五分の一になるまでリミッターをかけたとなると、過去にお前は力を暴走させてしまったのだろう」
「そう。七歳の頃だったわ。その時は精霊族の国の外れに住んでいて、ちょっと色々あって、主人を庇ってドラゴンに変化した。だけど、幼過ぎたレオンでは力をコントロール出来ずに暴走したのさ。それを私が封じた」
父は病死したと聞かされていただけに、寝耳に水だった。それともう一つ、サーシャも魔法を使えたという事だ。
「色々ありすぎて何から聞いて良いのか……母さんも魔法が使えたんだね」
「一応私も魔法大学院卒だからね。主席入学だよ。専攻は魔法薬学だ。人族として見えるように魔法薬を調合しているのは私だよ」
「え、そうだったの?」
今日は驚いてばかりだ。
我が事ながら情報が多過ぎてついていけない。呑み込むのに時間がかかりそうだった。
「どうかしたのか、エス?」
リビングの大窓から見える海岸を見ていたエスポワールが振り返る。
「レオン〜なんかくる〜」
エスポワールが言うのとランベルトが動くのとほぼ同時だった。
家を取り囲むように様々な種類の防御壁が張り巡らされる。
色とりどりの魔法弾が容赦なく撃ち込まれ続け、攻撃が防御壁に阻まれた振動で家が揺れた。
咄嗟とは言え、この強度の防御壁を詠唱破棄して五種類もかけたランベルトに舌を巻く。大学院にいた頃よりも格段に魔法力が上がっていた。
「何だよ、アイツら……っ」
ランベルトがいなかったら今頃どうなっていたのか分からない。
エスポワールを引き寄せて腕の中に匿う。
外には頭から足先まで黒いローブを着た男五人が箒の上に立っていた。
フードを深く被っている為に顔は一切見えないが、こちらを見て何やら口論している。
「話を盗み聞きした限りじゃ、何故貴方が此処にいるのか話し合っているわね。狙いはレオンよ。態と死なない様に攻撃を当てて負傷させてから捕獲しようとしている。これはエスの素性がバレるのも時間の問題だね。あの人達は、青い使徒と名乗るカルト教団。昔から主人とレオンを狙っていた。今すぐ捕らえるから何処かでボコりましょう」
——え、この距離で聞こえたのか?
物騒な言葉も聞こえた気がして、色々と考えている間に、サーシャが呪文を唱える為に口を開いた。
「ήάοήγ δο(捕えよ)」
大きな赤いスライムの塊が男たちの頭から足先まで落ちてそのまま内部に呑み込んだ。
息は出来ているようだが、身動きが取れないらしく懸命にもがいている。
「なら予定を変更して奴らごと一旦精霊族の国へ飛ぼう。国内に入れてしまえば容易く出る事は叶わない」
「賢明な判断ね」
四の五の言っている余裕はなくなった。
ランベルトが即興で開いた精霊族の国へと繋がるワープゲートを潜る。
慌ててさっきエスポワールに買ったスノードームを持った。
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