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第37話 君の
ベッドに一緒に行った。和磨くんの部屋はリビングにベッドも置いてあるワンルーム。キッチンがあって、バスルームはキッチンとリビング兼寝室を行き来する廊下のところにある。リビングとキッチンを遮るのはカウンター。そこには小さな電気ポットがあった。使い終わったばかりのバスルームからは爽やかな石鹸の香りがまだしてる。それから換気扇の音がすごく大きく聞こえた。
「パンツ」
「こ、これは……だって」
抱き締められて腰のところを撫でながら、和磨くんが呟いた。
今、履いてない、から。
貸してもらったのは服だけ。さすがに下着はお借りするのどうかと思うし。だから、今、服一枚で。自分のは濡れてしまったジャージと和磨くんの服と一緒に洗濯機の中で。
「うん。笑ったとか、そういうんじゃなくて。ただ俺、けっこうこういうの好きなのかなって思っただけ」
「?」
「あんまそういうのにクルと思わなかったから、自分に笑った」
「?」
「なんでもないよ」
和磨くんと会うのはレストランだったり居酒屋だったり。あとv映画館と本屋さん。それから、一番静かなところだと図書館。
でもどこも誰かしら人がいて、何かしら音がしてた。
けれど、今は二人っきりで、静かで、小さな物音もよく聞こえる。
換気扇の音が大きいと思えるくらいに。
とても静か。
和磨くんの小さな笑い声と、和磨くんが抱き締めながら僕の首筋にキスをする度に、反応してしまうせいで、シーツと服の擦れる音。
それから僕の心臓の音も、聞こえてしまいそう。
「佑久さん」
一般的には早い、のかな。
遅い、のかな。
でも――。
―― あいつ、手、早いよ。
そう若葉さんに言われていた和磨くんと、二度目のキスをしたのは、一度目からもうずいぶん経っていた頃だから、和磨くんにしては遅かったのかもしれない。
「……ん」
でも、僕らは僕らのペースで、タイミングで、いいと思えた。
「佑久さん」
だって、和磨くんが嬉しそうにしてくれるから。
「あっ……」
「緊張してる?」
「う、ん」
できるかな。
ちゃんと、和磨くんとできるかな。
そう思いながら準備していたんだ。
「あっ……」
「佑久さん」
男同士でする時は、そこを使うって、知って。すぐにはそこで気持ち良くなれないって知って。ちゃんと受け入れる準備をしておかないといけないってわかった。
でも、ネットに書かれていた通りにできなくて、少し焦ったりもした。
こんなところに入るのかな。
和磨くんの。
そう思って心配だった。
だって指、全然。
「ん、ん……ンンっ」
全然入らなかったのに。専用のローションを買ってたくさん指につけて、何度も試したけれど、僕の身体は自身の指にさえ驚いてしまって、まずは指を一本、って書かれている、最初の段階で止まってしまっていたのに。
「あぁっ……ぁ」
ウソ、みたいだ。
「あ、和磨、くんっ」
君の指は入っちゃう、なんて。
「せっま……」
「あ、あっ、なん、で」
「苦しい?」
「ちがっ、あ、ぁ……」
「佑久さん?」
本当に入らなかったのに。
「指、入った」
「……」
「僕、和磨くんとするためにって、してみた、けど、入らなくて。そしたらできないって、すごく心配だった、のにっ……あっ、っ」
どうしよう。これじゃ、できないよ。
そう思ったのに。
「よか、た」
「……」
「和磨くんの指、入った……ぁっ」
小さく和磨くんが指を動かしたら、キュって、した。そして少しびっくりした僕を丸ごと抱き締めるように和磨くんが上から覆い被さって。
「も……ホント、佑久さんって」
「和磨、くん?」
「可愛すぎる」
「そんなこ、あっ……あ、あ」
「ゆっくりやるから」
「ぅ……ん」
指が中で動く。少し中を擦られて、ゾクゾクってする。
「ひ、ぅ……」
変、なの。
「ひゃ……う」
あんなにちょっとしか自分の指は入らなかったのに。和磨くんの指なら、こんなに入ってしまうなんて。
「あぁっ」
ちょっとだけ準備のためにした時は気持ちいいなんてちっともなかったのに。
「あ、あ」
「佑久さん」
「ひゃあっ、耳元で、声、ダメ」
指に中を撫でられると、ゾワゾワして、身体がおかしくなりそうで、熱くて、思わず、彼に貸してもらったルームウエアの袖をぎゅっと握ってしまう。しがみつくように彼の服に掴まっていたら、身体を重ねるように覆い被さってくれていた和磨くんが耳元で僕の名前を呼んだ。
低くて、優しくて、少し掠れた声は毎日イヤホンで聴いていたのよりも近くて。
吐息がくすぐったくて。
クラクラする。
「あ、ひゃっ」
耳、気持ちいい。
「あっ」
首筋に触れる和磨くんの唇がくすぐったくて、落ち着かない。
「あ、あ」
銀色の髪が頬に触れる。彼の日差しに透けるくらい綺麗な髪が僕の鼻先を掠めてる。
「あ……ぁ」
熱くて、蒸発してしまいそうだ。
「はぁっ」
「佑久さん」
「う、ん」
かっこいいんだ。歌ってる時、少し高い音を出す時は、きゅっと眉をしかめるんだけど、それがすごくかっこいいなぁって思ってた。
「佑久さん」
「あ、今、指」
「うん。今、二本」
「ぇ、いつの間に……ぁ、あぁっ」
「これで三本。気持ちい?」
かっこいいなぁって。
「うん……」
今の和磨くんも、そんな顔をしてた。
そっと袖をぎゅっと握っていた手を開いて、その銀色に触れた。僕の世界にはなかった銀色の髪に触れて、引き寄せて。
「和磨くん、僕、気持ち、ぃ」
高い音を歌う時みたいに眉をしかめたかっこいい顔に触れた。
「和磨、くん……」
ずっとスマホの画面越しに眺めてたかっこいいとこを、僕のものって、できるのかもしれないって。
「ん」
ぎゅって君にしがみついた。
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