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第66話 君はよく笑う

 遅番だけど、会いたいって思った。  明日は早番だけど、一緒に夜を過ごしたいって思った。  だから、今日は会って、和磨くんのおうちで夜を一緒に過ごすことにした。 「あっ……っ」  こんなこと言ったら、えぇ? って、和磨くんは思うかな。  それとも、えっち、って言って笑ってくれるかな。 「んっ、ン」  和磨くんが、その。 「あっ」  僕の中に入る、時に。 「ひゃっ、ぅっ……ン」  僕に覆い被さるようにしながら、グッて、奥に、力強く来るのが、すごく好き……だなんて。  その、こういう行為の体勢で、こうなるというか、こうされるのがすごくドキドキするんだ、なんて。 「佑久さん?」 「あっ」 「なんか、考え事?」 「あっ、っ」  和磨くんにはバレてしまう。他の人には無表情としか思われないのに、和磨くんには嬉しいも、楽しいも、気持ちいいも、伝わってしまうから。 「明日、早番なのに。ごめん。ゆっくりにするから」 「あっ」 「っ」  言葉のとおりに和磨くんがゆっくりと僕の中を擦っていく。 「違……ぅ」  ぎゅっと肩を縮こまらせて、和磨くんの中に隠れるようにしながら。その胸に掌をぴったりくっつけて。 「奥……」 「え?」  小さすぎて、いつも聞き取ってくれる和磨くんでさえ聞き取れなかった。でも、あまり大きな声では、ちょっと。だから、やっぱり、小さな声で、そっと。 「奥、気持ちいい」 「……」 「っぅんっ、あ、あっ、なんっ、で」  聞こえるか聞こえないか、そのくらいの小さな声で、ポロリと呟いたら、僕の中にいる和磨くんのがもっと熱くなった。  熱くて、もっと、カチコチに硬くて。 「あ、おっき……いっ、あ、ひゃああああ」  僕の中が君でいっぱいになる。 「あ、待っ」 「無理。待てない、佑久さんが、そういうこと言うからっ」 「あ、ひゃあっ……あ、あ、あぁっ」 「もう、セーブしたかったのに」 「あ、あ、あっ」  濡れた音が部屋に響く。それから僕の甘ったるい声。 「セーブ、できないじゃん」 「あ、あぁっ」  奥まで来てくれる度に、奥の、気持ち良くてたまらないところがキュッとしがみつくから。 「佑久さんっ、も、ヤバ」 「あ、あ、ぁ」 「っ」 「あ、和磨くん、僕っ」 「いいよ」  蕩けてしまいそうなんだ。 「あ……」 「イク?」 「う、ん」 「佑久さん」 「イ……く」 「っ、ヤバ」  本の虫の僕はいつも頭の中に言葉がいっぱい。 「あっ、ダメっ」 「うん」 「和磨くんっ」 「ん」 「イクっ……」  なのに、君とこうしてる時は頭の中の言葉がなくなって。 「和磨くん、イクっ……ん」  君の名前しか。 「イクっ」  頭の中に浮かんで来ないんだ。  友だちを作るのも上手じゃなかったから、誰かのうちに泊まる、なんてことも経験なかったけど。  楽しい。  寝る準備まで楽しい。  もちろん、和磨くんは友だちではないけれど。 「……」  わ、ぁ。  うん。  友だち、ではない、けど。  そのすんなりと頭の中で並べた言葉に勝手に頬が熱くなった。いつになったら慣れるんだろう。この僕に、こ、恋人がいて、その恋人が和磨くんであることに。 「あ、そうだ」 「ひゃい!」 「また、佑久さん、なんかやらしいことでも考えてた?」 「!」  またもや、バレてしまった。  僕のわかりづらい表情しかできないはずの顔には和磨くんにだけ見える謎のペンで脳内の言葉が書き示してあるのだろうか。 「なんでもないよ。つか、今度、大学の文化祭あるんだけど。俺、ライブやるから、もしよかったら見に来て」 「え!」  飛び上がってしまった。  そして、その僕のリアクションに和磨くんがまた笑いながら、ベッドの上、手足の丈がやっぱり余ってしまう君の服を着た僕の髪を指ですいてくれる。 「ライブはしたことあるんだよ。路上の。あんま最近やらないけど、初期の頃とか」   「あ、うん」   「知ってんだ。すげ」   知ってるよ。  たくさん動画でオオカミサンを追いかけたから。ライブはすごく初期の頃だ。 「高校生ん時」 「高校生で路上でライブなんて、すごいよ」 「そう? アホなんだよ」 「そんなことない」  ちゃんと面影は オオカミサンだったけれど、でも髪は黒色だった。僕みたいな黒色、ではないけれど、明るい茶色だけれど、まだ銀色ではなかった。 「……まだ髪、少し濡れてんね」 「平気、すぐに乾くよ。じゃなくて、あの、ライブするの? すごい。あの、僕も見にいっていいの?」 「いいよ。つか、来てくれたらめちゃくちゃ」 「嬉しい」 「……」 「すごく嬉しい。ありがとう。楽しみだよ。あの、日にちを」 「っぷは」  君が僕を見て笑った。 「和磨くん?」 「ごめ。なんか、ホント、佑久さんってさ」  はい。 「来てよ。マジで」 「うん。もちろん」 「ありがと」  ありがとうを言うのは僕の方なのに。ライブなんて生まれて初めてだ。僕が行っていた大学の文化祭でもそう言うのあったみたいだけど、ほら、僕は本ばかりだったから、見に行ったことないんだ。 「こちらこそ、ありがとう」  楽しみだ。  すごくすごく楽しみだ。  それもきっと和磨くんにだけ読み取ってもらえたんだろう。  和磨くんは優しく笑いながら、まだ少し濡れていると教えてくれた僕の黒髪をそっと撫でて、うなじに温かい掌をおくと引き寄せて、もう一度「ありがとう」って唇に触れながら言っていた。  だから僕も、もう一度「こちらこそ、ありがとう」って答えながら、唇に触れた。

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